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No.273 ページ3

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「きっとそんなことないよ。私にはわかるよ、恵林が心から一番願っていることは、桐ヶ谷くんが元気になることだよ。」

恵林の横にしゃがんで、里奈は恵林の背中に触れた。

「桐ヶ谷くんは、誰かにそう思って貰えて幸せだと思うよ。」

マンションの廊下の、日の当たらない玄関前で固まる三人。サンダルを鳴らして、「そうだよ」とアインも二人の元にしゃがみこむ。

「葵、寝不足だったんだろ?今その分をチャージしてるだけだって!」

「だから!」とアインは俯いたままの恵林のほっぺたをガシッと掴む。

「葵が目覚ました時に、寝てたこと後悔するような楽しいこと、いっぱいしようぜ!」

すとん、と枷が外れて、心がボールのように弾んだ感覚がした。アインのポジティブで明るい言葉が、体全体に染み込んでいく。恵林は喉の奥がツンとして、上手く返事ができなかった。

「あー!やっぱり泣いてた!泣き虫エリン、泣き虫エリン!」

「泣いてないもん、汗だもん!」

「くっせ〜!汗かきエリン!」

「ちがわい!」

ギャーギャーと騒ぐ二人の声がマンションの駐車場に反響する。それを見守るように里奈はくすくすと笑って「あんまりうるさくしちゃだめだよ」と窘めた。

_____

「ねえ、どこに行く予定だったの?」

マンションを出て前を歩く恵林は、ポニーテールを揺らして振り返る。青空を反射したような綺麗な青いリボンもひらひらと彼女の頭で舞った。
ようやく見慣れてきたその青に微笑み、「決めてない!」と元気に答えるアイン。

「まあそうだよね、なんか分かってたわ」

そう言いながら自販機で炭酸ジュースを買うと、プシュッと音をたててそのまま口に付ける。
半分ほど飲み干して恵林は、「飲む?」と後ろの二人に差し出した。

里奈の「いらない」とアインの「いる!」が被る。
恵林は缶を彼に手渡して汗を拭い、「あちぃ…」とお天道様を仰いだ。

「川行こうぜ、最近行ってないだろ?橋の調子も確認しないとだし。」

汗ばんだTシャツに空気を送り込むアイン。
秘密基地近くにある緩やかで広い川辺は、中学に上がる前はよく世話になっていた。

最近はあまり行かない。共にそこで遊んだ友人が居なくなってしまったからだ。

行けば、きっと思い出す。
まるで昨日のことのように鮮明な、かけがえのない日々を。

「うん」と、小さく恵林は呟いた。こんな暑い日には、過去で時が止まっている冷涼な世界に戻ったっていいような気がした。



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そちゃ(プロフ) - おい氏橋!ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年3月15日 23時

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