残暑、眠りの神様にて。 ページ17
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___これは翌日の話。
氏橋颯太は手汗をかきながらとある立派な門の前で立ち尽くしていた。
シャワシャワと蝉が緊張感を掻き立てる。お天道様が強い光で氏橋のことを焼き上げていた。
「…っふぅ」
氏橋は今日、三日後に行われる市内の夏祭りに美江を誘うため、彼女の家までやってきていたのだ。その日は特別な日で、美江の誕生日でもありながら毎年氏橋が美江に告白をしてきた日。
学年の成績で一番を取った暁に、見事デート権を獲得した氏橋は、今年こそ告白の成功を目指して奮闘しているのだ。
少し呼吸を整え、眼鏡の位置も整え、ついでにTシャツのヨレも整えて、とうとうインターフォンのボタンを押した。
「はい、宮野です」と、それほど時間も掛からずに応答があった。おっとりした声色に、美江の祖母だとすぐ分かる。
「う、氏橋颯太ですッ!美江ちゃ…美江さんはいますか。」
噛んでしまった。
「お待ちくださいな」と優しそうな声がして、ぷつんと機械音がする。氏橋はそれは大きなため息をついて一度自分の頬を引っ叩いた。
「あらまあ、そうちゃん?久しぶりねぇ」
美江の祖母は上品な着物に身を包んでほっそりとしていた。小さい頃、何度も顔を合わせたことがあるので氏橋は「お久しぶりです!」と再会を懐かしく思った。
「こんなに大きくなって…でもごめんなさいね、さっきうちにもう一人、懐かしいお友達が来てくれてねぇ。美江はその子と出掛けて行ってしまったの。」
「懐かしいお友達…ですか?」と首を傾げる氏橋。美江がいないなら仕方がない。デートの誘いはまた今度にでも__
「ほら、中村紫苑くんがね、来てくれて…」
氏橋はピシリと固まる。
額の汗がツーっと垂れて、アスファルトの上に涙のような後をつくった。
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「な、な、中村ァァァ!!」
ガチャガチャと鍵の閉まった玄関扉が音を立てて、「うわっ、何?」と中村はソファから立ち上がる。
「氏橋の声だわ」
「ちょっと美江!!余所見しないでよ!!私だけ見て!!」と半目開きの恵林が声を荒らげる。
美江は片手にチークを持ちながら、「あらごめんなさい」と謝った。
中村宅では、桐ヶ谷の見舞いのために恵林の変装の手伝いが成されていた。中村とアインはテレビゲームをして時間を潰していたが、突然の来訪者に一時停戦を余儀なくされた。
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そちゃ(プロフ) - おい氏橋!ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年3月15日 23時