No.284 ページ14
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アインの住むマンションのエレベーターに乗りながら、「私…居てもいいのかな」と里奈が俯きかげんにそう言った。
「どうして?」
「私に言い難いことなら、私が聞きに行っても意味が無い気がして…」
エレベーターが七階に到着する。
「でも、アインは里奈に言いたいことがあるんでしょ?きっと大丈夫だよ」
開いた扉から出ていく恵林。「だといいけど…」と表情を曇らせて、里奈もその後に続いた。
インターフォンを押す。日陰になっていて涼しい廊下で、恵林はセーラー服の半袖から伸びた両腕をさすった。
「はい」と女性の声がする。どうやらアインの母親がアメリカから日本にやってきているようだ。
「畑中です、アインくんいますか」
「まあ!ちょっと待ってて!」
機械を通してでも分かるテンションの上がりように、顔を見合わせる恵林と里奈。アインの母親はいつでも元気いっぱいな人なのだ。
「ワーオ久しぶりねぇ!上がって上がって!」
「お、お邪魔します」と連れられるがままに家の中に入る二人。クーラーの冷風がここまできていて、肌寒いほどに涼しかった。
綺麗な長いブロンドの髪を揺らして、アインの母親はにこにこと笑いかけてくる。
「ほんとにいつもありがとう!アインも日本での生活が楽しいんだって毎日欠かさず言ってるのよ!」
「そんなに言ってねーよ!」とリビングの方からツッコミが入る。「あらそう?」とイタズラに笑った若いお母さんは、突然「アイスティーいかがかしら!」と手を叩いて廊下の先へ戻って行った。
「お、お構いなくー…」
きっと届かないだろう恵林の声もリビングの騒がしい親子の会話でかき消されていく。しばらくすると「わりぃ!お待たせ」とアインがやってきて、里奈を見つけるや否や「あ……」とあからさまに言葉を詰まらせた。
里奈は少し笑って恵林の後ろに下がる。
恵林はアインに対して、腰に手を当て「なに隠してるの?」と目を細めて聞いた。
「い、いやあ!隠してなんかないよ、何も!」
「嘘っぱち!怪しいもん、ぷんぷん匂ってるもん!」
「匂ってねーし!あ、そうだ!お前に聞きたいことあったんだった!」
「聞きたいこと?」と疑いの目を向ける恵林。アインが上手く話題を逸らそうとしているのはお見通しだ。
「ま、マジだって!葵の入院先が知りたかったんだよ、お見舞いに行きたくてさ!」
「葵…」と、恵林の顔が強ばる。
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そちゃ(プロフ) - おい氏橋!ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年3月15日 23時