No.283 ページ13
.
また悩み事が増えた。
恵林はエアコンの無い自室で、机とベッドを行き来する生活を送っていた。
机につけば、手紙の内容を考え桐ヶ谷への不安で押し潰されそうになり、ベッドに寝転がればしずくのことが頭をよぎる。
どこにも行く気になれなかった恵林は、この状況に変化を与えてくれる何かを待っていた。
八月も残すところあと一週間となった頃。恵林の家のインターフォンを、また誰かが鳴らした。恵林は嬉しくなったがそれを隠して、「どうせアインでしょ！」と勢いよく玄関を飛び出す。
「あ…ごめんね、高塚です。」
しかし、そこに居たのは里奈だった。
「め、珍しいねぇ！一人で来るなんて。どうしたの？」
恵林は一瞬ドキッとしたが、慌てて弁解するように里奈を玄関の中に入れる。なんだか里奈は落ち込んでいるようだった。
「あのね、相談したいことがあるんだけど…」
ぎゅっと体を縮こめて、深いため息をつく里奈。
いつも以上に小さな彼女の声に、恵林は「え…なに？」と、何故か自分のことなんじゃないかと次の言葉を恐れた。
バクバクと心臓が鳴る。もうこれ以上脳みそを使いたくない。
「最近、アインと話した？」
里奈はそう言って恐る恐る見上げるように恵林の顔を覗く。こくんと喉を鳴らして、恵林は「数日前に…」と答えた。
「あの…最近、毎日うちにアインが来るの。私に何か言おうとしているみたいなんだけど、あとちょっとのところでなんでもないって言って、いつも何も言わずに帰ってしまうの…」
ポカンとする恵林。
「なーんだ、そんなことかぁ」と一安心すれば、里奈が「何か知ってるの？」と首を傾げた。
「いや何も知らないけど、怖いことじゃなくて良かったー！」
しゅんと肩を落とす里奈。「あっ、ごめん…」と今更謝って、恵林は腕を組んで考えた。
「うーん、でも普通に考えると、毎日来るだけ来て何も言わずに帰るなんて気持ち悪すぎるな…」
「迷惑極まりないし…」と付け足せば、里奈が「ちょっと変だよね」と苦笑した。
「なんだろう、言いたいのに言えないこと…うーん、うーん…告白とか！？」
まるでどこぞの情報屋のような思考回路だが、考えてもそれしか出てこない。「でもアインなら普通に愛してるくらい言えそうだしなー」と考え改め、また振り出しに戻る。
「ダメだ、わかんない！直接本人に聞きに行こうー！」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 15人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
そちゃ(プロフ) - おい氏橋！ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (
レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2023年3月15日 23時
