No.200 ページ32
.
「____え?」
思わず、恵林は足を止めた。
「いや、葵は私なんかには…」と言いかけたが、よく思い返してみればテストの時だって面倒を見てくれていたじゃないか。
「だけど、葵は自分の勉強に手一杯だと思うし…」
恵林は自分の考えを否定するように続ける。
最近は桐ヶ谷とまともに喋れていない。
休み時間も常にノートに数式を書き込んでいる桐ヶ谷。
帰りの会が終われば直ぐに帰宅してしまうため、恵林が桐ヶ谷と話せるのは決まって修学旅行の班で集まる時だけだった。
だから、恵林の最近の楽しみといえばそのホームルームの時間なので、それがない日は心底つまらない。
隣で目を伏せた少女に、修也はクスクスと笑みを零した。
陰る廊下。
外では騒がしく蝉が鳴いている。
「…恵林ちゃんは、もう少し自分の気持ちを自重した方がいいよ」
「…え?」と聞き返した恵林に、「そんなに分かりやすいと、誰かが傷ついちゃうじゃ〜ん?」と修也は返した。
よく分からない。
恵林は何も答えられなかった。
「ほらほら、本当に君は、都合の悪いことは何も知らないのかい?」と修也は苦笑する。
「…すみません」と何が何だかよく分からないまま恵林は謝った。
簀子を渡る。
風が気持ち良い。
体育館に入ると、もう壮行会はスタートしていた。
修也は「それじゃあ、また後でね」と微笑んで恵林から離れていく。
恵林は自分のクラスがどこに並んでいるのかを探して歩き出した。
……またひとつ、忘れたいことが増えた。
.
15人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2022年4月14日 17時