No.176 ページ4
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木下が運ばれていくのを見送って、恵林は一人理科室に戻ってきた。
「恵林っ!やっと帰ってきた…」と和葉は恵林に抱きつき、すぐさま「しーくんは?」と聞く。
生ぬるい風が窓から入ってきて、友人たちの曇った表情を湿らせた。
「保健室に行った…しーくんが木下を蹴って、それで、先生が来て…」
放心気味な恵林を囲むようにして集まる晩餐会メンバー。深刻そうに「やっぱりね」と美江が呟いた。
「でも違うよ!しーくんは私のために…」
「みんなわかってるよ」と、珍しく里奈が恵林の言葉を遮り、一歩前に出て彼女の顔を見据えた。
「…悪い人なんていないよ」
里奈はそう言って黙った。
「…そうだよね」
恵林は深呼吸して息を整えると、「とにかく、今はしーくんたちが帰ってくるのを待とう」と静かに告げた。
昔から、取り乱した恵林を落ち着かせるのは決まって里奈だ。
「里奈、ありがとう。アインもすぐ戻ってくると思う」
恵林はそう言って里奈にお礼をすると、理科室の一番前の席に腰掛ける。
「問題は、アインが木下の味方をしたらなんだけど__」
「違うだろ!このまま木下が晩餐会を批難すれば、また廃部の危機だぞッ!」
氏橋は声を荒らげて恵林の元へと向かう。
「どうしてあいつはいつもいつも問題を起こしてくるんだ!」と中村の悪態に頭を掻きむしる氏橋。
「晩餐会から中村センパイを追放すればいいんじゃないですか」と軽率に口を挟んだ絢瀬に、「そんなことする訳ないよ」と恵林は強く言った。
「じゃあ逆に、木下センパイを晩餐会に入れちゃうってのはどうですか?」
兄の失言をカバーするかのように、しずくはそう言って人差し指を立てる。
「中村センパイと木下センパイが仲直りして晩餐会に入れば、逆に木下センパイが晩餐会の良いところを学校に広めてくれるかも!」
「なるほど、流石しずく!」と絢瀬は妹に腕を絡めた。
恵林はじっとそれを眺めながら口を開くと、「…木下がしーくんを許すとも、晩餐会に入ってくれるとも思えないな」と唇を尖らせて視線を逸らした。
「ですよね…すみません」としずくは肩を落として苦笑した。
「しかしどうするんだ、鈴原への依頼も無くなれば晩餐会の評判はガタ落ちだぞ!」
「ただでさえ無に等しいのにマイナスになってはいかんだろうが…」と続けた氏橋に「もうマイナスでしょ」と絢瀬が小さく余計な一言を付けたした。
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2022年4月14日 17時