No.195 ページ26
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「俺はずっと耐えてきた。
何かある度あいつの父親が金で揉み消そうとしてくるのにも耐えた。…もう死んだらしいが。
"先週"は中村の兄貴がうちまでやってきたけど、父親とすることは全然変わんなかったな。」
「それにあの兄貴はちょっとイカれてる」と木下は吐き捨てるように付け足した。
「でも、俺にはお前もしーくんに突っかかってるように見えるけど……とても虐められてるようには……」
木下は「そう!俺は復讐してんの!」と得意げに笑ってみせた。
「中村が権力を握ってたからクラスの誰も中村には逆らわなかったけど、みんな不満だったんだ。
でも、それも高学年になる頃にはすっかり逆転!」
アインはその話を聞いていて、なんだか居心地の悪い感覚を覚えた。
あの優しい中村が意地悪をするだなんて考えられない。けれど、木下が嘘をついているようにも見えない。
だが、それ以前に中村の衰退を嬉しそうに語る木下がどうも気持ちのいいものではないということだけよく分かった。
「急に中村がボロくなったんだよ。すぐ物を忘れるし、髪は切らないし、身なりがなんか汚くてさ。
少しずつ誰も中村に従わなくなった。」
木下はまた歩き始めだ。
「だから俺は復讐のチャンスだと思った」と言った木下の表情はよく見えなかったが、声色からして恐らく真剣な顔をしていたのだとアインは思う。
「みんな中村が怖かったけど、俺は中村を教室から追放した。お前の居場所なんてないんだからなって、言ってやったのさ。」
「悪いが、正義は俺だ」と木下は振り返ってふざけたように笑った。
「ま、最後まで宮野とかは中村にくっついて回ってたけど、結局宮野もいじめっ子じゃん?鈴原、そういうことなんだよ。」
木下はそう言いながら陸上競技用の三角コーンを体育倉庫から取り出してくる。
アインはそれを見ながら「そっか……」と小さく呟いた。
…木下が中村に突っかかっているのは過去の復讐のため。
そうなってくると、とうとう悪者がはっきりしない。
またたくさん考えなければならない結論が出てしまった。
「俺は、しーくんも木下も、好きだよ。」
アインは疲れた様子でため息をついた。
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2022年4月14日 17時