No.194 ページ24
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場所は変わってA棟第一音楽室前。
氏橋はこの扉の中から美江が出てくるのを今か今かと待ち望んでいた。
時刻も5時半を過ぎている。もう少しで部活終了時刻だ。
彼の願いが届いたのか、壮大な最後のフレーズがようやく終盤にさしかかり、数秒もしない間に終わりを迎えた。
同時に氏橋の心拍が跳ね上がった。
＿＿＿＿宮野出てきたらまず初めにお疲れ様と言おう。
氏橋は心にそう強く刻み込むと、もう間もなく訪れるその時をじっと待った。
音楽室の扉が開いた。
「あっ、生徒会長！」とわらわら出てきた後輩が氏橋に挨拶をした。
「あ、ああ。」と裏返った声で返事をする氏橋を、後輩達は不思議そうに笑う。
ちょうどその奥に美江の姿が見えた。
氏橋が咄嗟に彼女を呼ぼうと大きく手を挙げた。
「あ！中村先輩だ！」
その時だった。
後輩の群れが一斉に氏橋を通り過ぎていくので、氏橋が気になって振り返るとそこにはこちらに早歩きでやってくる中村がいたのだ。
後輩たちは「心配しましたよ、急にいなくなるので…」と中村を囲って眉を下げた。
「ごめんね、ちょっと通して。」と中村は後輩に優しく微笑みかけてその場を切り抜けると、「お、そうちゃん」と氏橋の前を通過して音楽室へと入って言った。
「宮野ちゃ〜ん」
氏橋は耳を疑った。
中村が美江を呼んでいる。
美江はぴしりと固まって黙ったまま立ち止まった。
「あのね、さっきはごめんね。
木下に怒ってくれたのも全部俺のためだったのに…
今更だけど、すごく嬉しかった。ありがとう。」
中村ははにかんで美江の目を見つめる。
美江は一瞬戸惑ったが、すぐに元の調子に戻って「と、当然よ！」と腕を組んだ。
「あなたは私がいないとすぐ調子に乗るんだから！気をつけなさいよね！」
中村は「そうだね、これからもよろしくね」と笑って美江の機嫌をとると、「あっ」と思い出して音楽室の前に氏橋がいたことを知らせた。
「氏橋？」と美江は音楽室から出てくる。
氏橋はというと「み、宮野…お疲れ様です」とかしこまって一礼をした。
「ヘンなの。なにか用？」
周りが騒がしい。美江もクラリネットを早く片したそうにしている。
氏橋はもはや何も言える気じゃなくなり、「それだけだ、スマン。」と謝ってまた一礼をし、階段を駆け足で下っていった。
「なにアイツ…」と美江は目を細めて氏橋の消えた先を眺めた。
その後ろで中村が、何やら面白おかしく腹を抱えて笑うのだった。
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2022年4月14日 17時
