暗影岐夏、鬼の敵。 ページ16
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その頃中村が何をしていたかと言うと。
「あれ！中村センパイじゃないですか？どうしてここにいるんです？」
下駄箱にて外靴を取り出そうとしていた中村は「…げっ」と目の前の双子には聞こえないように顔を逸らした。
「センパイ！セーンパイっ！」
「…しずくちゃん、元気だね〜」
敢えて何も見ないふりをしようとしても、しずくが強引に視界に入ってくる。
生気を抜き取られたような感覚になって、中村は「ははは…」と乾いた笑いを零した。
「ナカムラシオン、あんた吹奏楽部じゃなかったんですか」
「部員ではないよ」と絢瀬に答えながら上履きを脱ぐ中村。
「でも、いつも吹部に顔を出してるじゃないですか。今日はいいんですか。」としつこく絢瀬は中村に詰めよる。
「そうですよっ、中村センパイが居なきゃ、恵林センパイが泣いちゃいます！」
「なんでよ」と中村は笑った。
「修也様にいじめられちゃうじゃないですか！」
中村は自分の腕に絡みついたしずくを見下ろす。
しずくは口ではそう言いながら、にこにこと機嫌良く頬ずりしている。
「いじめられないよ、兄貴は恵林のことを気に入ってるし＿＿＿＿」
「えーっ！そうですかぁ？」
しずくの甲高い声が中村の言葉を制した。
「ボクには、そんなふうには見えませんけど……」
まるで狼のような二つの眼は、中村の奥底までを見抜くようにして光っている。
ぱちぱちと瞬きしたしずくは、中村の揺れる視線に幼い顔で笑って見せた。
中村はなんだかいても経ってもいられなくなって、「ごめん」と謝ってしずくの腕を振りほどく。
そして外靴をしまい、上履きを履くと早足で廊下を進んで行った。
＿＿＿＿できれば美江とは出くわしたくないが、そう思えば思うほどばったり会ってしまうなんてのはよくある事だ。
中村が音楽室の扉を思いっきり開いた時、「きゃっ」と内側から丁度良く出ようとしていた女子生徒が倒れてきたので、慌てて中村はその体を受け止めた。
その少女の髪が、綺麗な灰がかった桃色をしていたので、中村は瞬時にそれが誰なのかを悟った。
……美江は顔を上げた。
中村が微妙な表情で美江を見下ろしている。
「…どうも」と美江は素っ気なく答えて身なりを整えると、そそくさとその場から退散した。
「紫苑！待ってたよ〜〜」と今まで流れていたピアノが止まった。
修也は嬉しそうに自分の弟の手を引いて、再度ピアノの元まで向かった。
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2022年4月14日 17時
