No.183 ページ12
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「やあ、随分元気そうだね。足の調子はどう？」
「お陰様で通院数が増えただけで済んだよ。」
皮肉めいた木下の返事に、「な〜んだ、ならもっと踏んづけておけばよかった。」と中村は微笑んだ。
木下の連れは、本物の中村と対面するのに少々ビビっている様子で、木下より数歩後ろで余裕ぶりながら固まっている。
なんて言ったって、中村が暴力団を束ねているという噂はずっと前から生徒の間で蔓延っているからだ。
「お前はなんも変わってねえな。昔から嫌な奴で、すぐ蹴ってくる…」
セリフの最後で、木下の表情が歪んだ。
「……行こうぜ」
木下はそう言って友人を連れ自分の教室に戻ろうとした。
だが、その行く手を阻む中村。
中村は木下の大事な松葉杖の片方をしっかりと握ってニタリと笑った。
「いいの使ってるじゃん？"俺の金"で買ったの？」
「やめろ！」
「たんまり"あげた"もんね〜、もっと欲しかったらこれも壊してあげようか。」
「ちょっと中村！」と、流石に止めに入った美江。
「なんでこいつにばかり構うのよ！放っておけばいいじゃない！あなたがちょっかいかけるから面倒なことになるのよ！」
美江に振り返り、中村はなにか言おうとしたが直前で止めた。そして少しの間考える素振りを見せ最後に鼻で笑うと、美江に引かれた腕でそのまま彼女を引き寄せた。
「だそうなので、今日はこの辺にしといてやるよ。
自分の足を大事にね、木下くん。」
中村は美江の手を引いて踵を返した。
「宮野ちゃん、俺の前を歩いて」
「え？」と美江が聞き返す。
中村は小声で「後ろから何か飛んできたら怖いでしょ？」と微笑んだ。
先程の中村と木下の一連を興味深そうに眺めていた生徒たちがそそくさと自分の持ち場に帰っていく。
中村には近づきたくない癖に、中村の喧嘩にはわらわらと人が寄ってきた。
そんな中、木下の連れが「いつも女に守ってもらってんじゃん」と中村に聞こえるような声で言った。
中村はそれを無視した。
後ろから飛んでくる物が言葉だけで済んでよかったと黙ったまま歩みを進める。
「いや、だってあいつ"紫苑ちゃん"だぜ？」
＿＿＿＿＿＿しかし、その一言が聞こえた瞬間、中村ではなく美江が飛び出していった。
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2022年4月14日 17時
