No.146 ページ8
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「グレードは3。B部門の出場ね…となると…」
部員たちがせっせと準備をしている間、修也はぶつぶつ何か呟いていた。
「美江ちゃん」
「はい!」
修也に呼ばれ、美江はほんの少し緊張した様子で返事をする。
恵林はその間に準備室に逃げ込むと、フルートと譜面台を取り出して自分のパートへと向かった。
修也の自己紹介はめちゃくちゃだ。
いきなり好きな音を出せだとか、締めの言葉も一切なく練習に入ろうとするところとか、今後に不安が募る。
しかし、もっと恐ろしいのは、恵林は未だ一度もコンクール練習に参加していない事だった。
美江の懸命な声がけのおかげでたまに吹部に顔を出しては居たものの、居心地の悪さから個人練習ばかりを選んでしまい、自分のパートの様子をほとんど把握出来ていなかった。
それに、コンクールに参加できるのは人数の都合と質の向上のため三年生と二年生だけであり、いつもの合奏よりも自分の音が目立ってしまうのは目に見えて分かる。
どうにかして、恥をかくことがないよう努めなければならない。
その重たい気持ちに、恵林の胃がぎゅっと捻れた。
音楽室に戻ると、美江と修也が険しい顔で何か話し込んでいた。
他の生徒たちは皆チューニングに励んでおり、自分の楽器のピッチがどうとか、怖い顔でチューナーと睨めっこしていた。
続々とドラムやグロッケンなどの大きな楽器が運ばれてくる。恵林はその中を早足で突き進んだ。
木管楽器のフルートの位置は指揮者のすぐ真正面で、クラリネットとは隣り合わせ。
恵林は本番も、美江と並んで演奏することができた。
「恵林先輩!」とメイの声が響いた。
恵林の肩がビクンと跳ね、ぎこちなく振り返る。
「先輩、楽譜持ってますよね?」
「う、うん!一応…私パートなに?」
「フルートの“風”はワンパートしかないので、みんな同じ楽譜です!」と、真面目な表情でハッキリ答えたメイ。
ファーストもセカンドも無ければ無いで単純でいい。恵林はほっとして「ありがとう」とお礼を述べた。
パイプ椅子に座る。後ろのサックスやチューバの音がダイナミックに聞こえてくる。
震える手で譜面台を組み立てると、譜面を入れているファイルを開き、“風”を探した。
その間も、恵林たちの前で指揮棒を握った修也と美江の話は続いていた。
どうやら人数の話をしているみたいだが、よく聞こえない。
「恵林先輩、ピッチ確認して貰ってもいいですか…?」と、横から後輩が声をかけた。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» ゎゎゎ…いっぱい書いていただいてありがとうございます!伏線回収にそろそろ走りますよー!!!!!お楽しみに… (2022年2月13日 0時) (レス) id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ(プロフ) - 投稿お疲れ様です!!!中村家激推し回でしたね()個人的に和葉ちゃんの天然可愛さが尊すぎて最高でした.....!!!桐ヶ谷くんの話とかえりんの話とかしーくんの話も気になることが増えて次巻がとっても楽しみです🎶 (2022年2月13日 0時) (レス) id: bf330b1b47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2022年2月10日 8時