No.143 ページ5
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「恵林ちゃん、痛いのは僕じゃなくて紫苑の方が得意だよ」と謎のアドバイスをしながら修也はゆっくり立ち上がった。
「本当にすみませんでした……」と恵林が顧問の横で深々と頭を下げると、「知り合いでしたか」と顧問は少し驚きながら修也と恵林を見比べた。
「ああ、はい。弟の同級生なので。」と修也はまた笑い、何を思ったのか「うちにも泊まりに来たもんね〜」なんて言い出した。
「え?」と辺りがザワつく。恵林は「そ、それよりなんで修也さんがここに?」と話を変えようと慌てて口を挟んだ。
「あれ、聞いてない?」
修也が首を傾げて微笑む。
「この子、全然部活に出てないんですよ!」と美江が困ったように修也に助けを求めているのを横目に、恵林はちらりと顧問の様子を伺った。
顧問は怖い顔をしながら「うちにこんな素晴らしい方が来て下さるなんて…」と呟いている。
未だによく分かっていない恵林の腕をガシッと掴みながら、美江は修也を「さ、こちらです!」とどこかへ案内しだした。
顧問もついてくる。おそらく吹奏楽部の部室に向かっているのだろう。
つまり修也の用は吹部にあるのか?
胸の内がもやもやする中、中村修也御一行はとうとうA音楽室までやってきた。
中から色んな楽器の音がする。
準備室から顔を覗かせた部員が何事かと修也たちを眺めるが、中には「カッコイイ人が来たよ!」と他の部員に知らせる者もいた。
…ああ、ここにはいたくない。
なんせこの部屋の中には、恵林の喧嘩別れした親友がいるのだから。
音楽室の扉を開けた瞬間、室内はピタリと静かになって一斉に視線が修也へと集まった。
恵林は居心地の悪さを感じながらも、フルートパートの元には到底行けずその場で美江の背後に隠れるようにしてやり過ごす。
顧問が、黒板前のフローリングの壇上に立った。
「前にも言いましたが今年のコンクールまであと一ヶ月を切りました。この夏で三年生は引退、最後のコンクールです。
優秀な講師の方に来て頂いたので、今日から一ヶ月間、よく学ぶように。中村先生、ご挨拶よろしくお願いします。」
「は〜い」と、顧問の引き締まった声色にそぐわない軽快な返事が聞こえた。
顧問と入れ違いで登壇した修也はチョークを持つと、背後の大きな黒板にひらがなで「なかむらしゅうや」と書いて見せる。
部員たちがざわめきだしたが、修也は気にせず手をはたいて前を向き「全員楽器を構えてくださ〜い!」と突如彼らに呼びかけたのだ。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» ゎゎゎ…いっぱい書いていただいてありがとうございます!伏線回収にそろそろ走りますよー!!!!!お楽しみに… (2022年2月13日 0時) (レス) id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ(プロフ) - 投稿お疲れ様です!!!中村家激推し回でしたね()個人的に和葉ちゃんの天然可愛さが尊すぎて最高でした.....!!!桐ヶ谷くんの話とかえりんの話とかしーくんの話も気になることが増えて次巻がとっても楽しみです🎶 (2022年2月13日 0時) (レス) id: bf330b1b47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2022年2月10日 8時