空蝉時雨、嫌いな鬼。 ページ31
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「恵林！」と、階段を下りようとしていた彼女を呼び止めた中村は、恵林の足が止まったのを見て駆け足でそこへ向かう。
「しーくん…」と目を擦りながら、恵林は息のあがった中村に目を向けた。
中村は一呼吸置いて顔を上げると、真っ赤に泣き腫らした恵林の顔を見て「ふっ」と困ったように微笑んだ。
校舎の外でセミが鳴いている。
「晩餐会にでも行くつもりだった？」
「うん…」
恵林はゆっくり階段を下りる。
その横を中村もついていく。
お互い何も話さないまま理科室につき、恵林を先に入らせてピシャリと扉を閉めた中村。
黒板には『体育館にいます』という文字が。大方昨日と同様、和葉と氏橋がアインを観に行っているのだろう。
「…アインも、私のこと嫌いになっちゃったのかな」
ブーッと鼻をかんで、恵林はゴミ箱に丸めたティッシュを投げ入れた。
「なんで？そんなわけないじゃん」と中村は苦笑しながら窓際の席に腰かける。
「だといいけど…」とぼんやりしている恵林。どうやら昨日のことが気がかりなようだ。
それに気づいた中村は、恵林を手招きして横に座らせると「アインは恵林が大事だから、木下の誘いに乗ったんだと思うよ」と優しく笑って見せた。
「でも、私が喧嘩になりそうだったから断わざるを得なくなったのかも…」
「う〜ん…」と中村は再度苦笑し、「いっぱい悩み事があるね。」と頬杖をついて外を眺める。
暑い。
理科室は猛暑だった。
遮光カーテンは開いていたが、どこか薄暗い。
一階だから仕方がないのかもしれないが、ここから見える校庭の眩しさに目が眩む。
恵林はもう一度涙を拭うと「修也さん怒ってるかなあ」と呟いた。
中村は「怒ってないよ」と即答する。
「アイツ、ただ父親の真似してるだけだから。気にしないでいいよ」
そんな彼の声色が気になって、恵林はちらりと中村の表情を伺った。
骨張った細指が美しい。あの指でピアノを弾くのだからまた絵になるのだ。
そして、憂いを帯びた新緑の瞳には、長いまつ毛が伏せられている。
ついついその少年に見惚れながらも意識を取り戻し、「お父さんの真似って？」と聞いた恵林。
「…やる気がないなら出てけとか、二度も言わせるなとか、俺もよく昔父さんに言われたから…」と、中村は静かに答えた。
「だからピアノは嫌いなんだけどね」
そう言って恵林に笑いかけた中村。
栗色の髪がさらりと揺れた。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» ゎゎゎ…いっぱい書いていただいてありがとうございます！伏線回収にそろそろ走りますよー！！！！！お楽しみに… (2022年2月13日 0時) (
レス) id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ(プロフ) - 投稿お疲れ様です！！！中村家激推し回でしたね()個人的に和葉ちゃんの天然可愛さが尊すぎて最高でした.....!!!桐ヶ谷くんの話とかえりんの話とかしーくんの話も気になることが増えて次巻がとっても楽しみです🎶 (2022年2月13日 0時) (レス) id: bf330b1b47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2022年2月10日 8時
