空蝉時雨、鬼のうた。 ページ23
.
翌日も、放課後に恵林は美江に連れられてA音楽室に向かっていた。
昨日と違うことがあるとすれば、それは恵林の横に中村の姿もあるということだった。
二人は美江に腕を掴まれて「シャキッとしなさいよ！」と怒られている。
今日は一段と気温も高く、また風も無いため廊下は灼熱と化していた。
暑さもそうだが、恵林の心は浮かない。
教室を出る際、アインが恵林になんの声もかけずに部活へと向かったのがほんの少しだけショックだった。
いつもなら なんら気にすることのない出来事だが、昨日の今日では状況が違ってくる。
アインは今日、晩餐会に来てくれるだろうか。
「俺、吹部じゃないのに……」と、横で中村が苦笑した。
「仕方ないじゃない！ピアノが弾けるの、あなたしかいないんだから！」
「そんなわけないでしょ〜」
「今から譜面を覚えてたら時間がないのよ！」
美江は振り向きながら「あなたなら楽譜を見ればすぐ弾けるし、だから修也さんもあなたを選んだんでしょう？」と中村に怖い顔をする。
「あいつは俺をいじめたいだけだと思うけど…」と中村は小さく反論しながら廊下の先を見据えた。
そんな頼りない二人を引っ張る美江の心は荒んでいた。
この二人はなんだってこんなにも意識が低いのだろうか。コンクールだぞ、最後の晴れ舞台なのだぞ。
中村だっていつものように有無を言わずに笑って引き受けてくれればいいものを、どうしてこんな大事なイベントに限って迷惑がるのだ。
それに、恵林はソロを担っているのだ。
もう少し気を引き締めてもらわないと困る。
「恵林、今はフルートのことだけ考えて！」
美江は前を向きながら言い放った。
「うん…」と魂の抜けたような返事が返ってきたため、美江は苛立った気持ちを抑えるべく、歩くスピードを上げた。
音楽室には、既に修也の姿があった。
美江は彼の元まで来ると、後ろの二人の手を離して挨拶を済ませる。
「修也さん、今日もよろしくお願いします」
「肩の力抜いて〜。今日は暑いからピッチ気をつけてね」
「はい！」
修也はニコリと笑って準備室へ入って行った。
「なにあいつ。弟に一言も声掛けないわけ？」と中村は自分の兄が消えた方をじっとりと睨む。
おまけにピアノには既に楽譜がセットされており、あとは中村が弾くだけになっている。
まるで修也に、“お前はすべき事をしていれば良い”とでも言われているようだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 14人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» ゎゎゎ…いっぱい書いていただいてありがとうございます！伏線回収にそろそろ走りますよー！！！！！お楽しみに… (2022年2月13日 0時) (
レス) id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ(プロフ) - 投稿お疲れ様です！！！中村家激推し回でしたね()個人的に和葉ちゃんの天然可愛さが尊すぎて最高でした.....!!!桐ヶ谷くんの話とかえりんの話とかしーくんの話も気になることが増えて次巻がとっても楽しみです🎶 (2022年2月13日 0時) (レス) id: bf330b1b47 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2022年2月10日 8時
