No.272 ページ10
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「何が始まったんだ？」
アインはコソコソと中村に耳打ちをする。
「え〜？
毎年の恒例行事。」
中村のそんな返事にピンとこないアインは
首をかしげて美江と氏橋を交互に見つめた。
「今日がなんの日であろうと
あんたには関係ない！」
「今日はッ！宮野美江の誕生日だッ！！」
「話聞きなさいよ！！」
「へーっ」と、アインは声を漏らす
なるほど、そういうことだったのか。
「宮野、今年こそはいい返事を貰うぞ。
俺とッ！付き合ッ」
「もう！！なんでこんな人だかりで毎年毎年！
答えはNOよっ！」
「なッ…！おい、待て！宮野！
まだ最後まで言ってないぞ！
そして俺の何がダメなんだ！おいッ！」
美江は浴衣のまま逃げ出した。
しかし、足の遅い氏橋はそれでも彼女に
追いつけない。
「そうちゃんがんばれ〜」
ケラケラと楽しそうに笑う中村。
その横でアインが苦笑した。
「み、美江ちゃんどこ行くのーっ！」
残された和葉と里奈があたふたしながら、
美江の消えた後を追う。
「アインっ…またねっ！」
「おう！気をつけろよ里奈！」
「うん…っ」
里奈はニコリと振り返って手を振った。
「あれ、里奈俺のこと忘れてない？」
「里奈可愛かったな…」
「アイン俺の話聞いてないでしょ」
アインはうっとりと里奈の後ろ姿を眺めながら
再びリンゴをかじる。
と、そこで彼のポケットから
変な音楽が流れ出した。
「お、わりぃ電話だ。
しーくんこれ持ってて」
「はいは〜い」
それ、着メロだったんだ。
中村はりんご飴を受け取ってぺろりと舐める。
口元のベタつきにさえ目を瞑れば、
案外いける美味しさだと実感して
また水飴の部分を舐めた。
「もう行っちゃったけど…うん……
……うん…………はあ？」
しかし、なんだか電話に出たアインの様子が
おかしい。
中村は聞き耳を立てつつ自分の携帯で
時間を確認する。
午後七時前だ。
再度携帯をしまうためにボディバッグを
前方へ寄せる。
と、その時、アインの口から聞きなれた
名前が飛び出てきた。
「…葵、突然なに言って＿＿＿」
葵？
あの、桐ヶ谷葵か？
そしてこの慌て様、一体何があったのか。
中村の血が騒ぐ。
この嫌な予感、外したことは無い。
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2019年12月22日 18時
