夏祭り ページ9
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No side
「おい！しーくん！
りんご飴も食べようぜ」
「ええ〜
口ベトベトになるから俺はいい〜」
「なんだよ、つれないなぁ」なんて呟きながら
アインはりんご飴が売られた屋台へ並ぶ。
前には2、3人の人がいて、背の低い彼は
その奥の様子を確認出来ない。
どうか売り切れませんように。
アインは心の中でそう祈った。
少し遠くで、中村が誰かと話している。
うわ、女子だ。
浴衣を着た女子が3人、中村を囲っている。
アインはじっとりと目を細めて
中村を見つめていたが、その女子の中に
なんと里奈がいるではないか。
よく見れば他の2人も、和葉と美江だ。
「お？恵林がいないなぁ」
いつものメンツかと思ったが
肝心な要がお留守のようだ。
しかし、里奈の浴衣姿を拝見できたアイン。
もう心残りはない。
「あの、お客さーん」
いかんいかん。
里奈に見惚れてりんご飴の存在を忘れていた。
アインは屋台の店主から真っ赤にテカる
りんご飴を1本貰って、高鳴る鼓動を
抑えながら、中村の元へ……いや、
里奈の元へと向かった。
「里奈ー！」
「アイン…っ！
りんご飴、美味しそう！」
「おう！食うか？」
「ううんっ、いらない…！」
「あ、そっか……」
アインは虚しい表情でりんごの部分をかじる。
甘い水飴が、木枯らしの吹き荒れた彼の心を
しっとりと潤した。
「みんな浴衣似合ってるね〜
あれ、君たち3人がいて、恵林はいないの？」
中村はニコリと笑ってキョロキョロと
辺りを確認する。
「恵林も誘ったのよ？
でも連絡が返ってこないから
置いてきちゃったわ」
美江が浴衣の裾を直しながら答えた。
「そうなんだ。」
一瞬中村の表情が曇ったが、すぐにパッと
笑顔になって、和葉の暖色な浴衣を指さした。
「似合ってるね、三城ちゃん」
「えっ！？ほ、ほんと！？」
「うんうん、ね〜アイン」
「えっ、あ、そうだな！和葉らしい色！」
中村に肩を叩かれてアインが答える。
和葉は照れくさそうに「そ、そうかな〜」と
微笑むと、ちょっと後ろへ下がった。
「おい！宮野ッ！」
と、丁度その時。
遠くの方でそんな大声が上がった。
美江は「げっ」と声を漏らし
里奈の後ろへと隠れる。
声の正体は、氏橋颯太であった。
「何よ！」
「む、なんだ、お前達も揃ってるのか…
まあいい。宮野、今日は何の日か分かるか？」
「始まったね〜」とケタケタ他人事のように
笑い出す中村。
対照的に、美江の顔は険しくなっていった。
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2019年12月22日 18時
