No.271 ページ8
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なんとなく。
ただ、なんとなく不安で
その場を離れることができない。
俺は周囲を確認して
駆け足で校門を通り抜けた。
リュックサックの中で、筆箱がガチャガチャと
音を立てる。
どの部屋も明かりがついていない。
本当に無人なのだろう。
校庭へ周り、第一理科室の前までくる。
懐かしい。この場所へ来たのは
いつぶりだろうか。
トクントクンと脈打つ心臓。
焦燥感と蜩の鳴き声の狭間で、
俺は窓に手をかけた。
「あっ、閉まってる…！」
俺はガタガタと窓を強く引くが、
やはりビクともしない。
畑中さんは鍵を閉めていったようだ。
得体の知れないこの胸のざわつきはなんだ？
落ち着かない。緊張感すら伴っている。
その時、頭上で「カァーッ」と
俺は驚いて顔を上げた。
「なんだ、カラスか」
黒い翼を優雅に羽ばたかせて
飛び去っていく鴉。
その羽の瞬く先に、
俺の「不安」は確かに存在した。
「畑中さんっ！」
俺は叫ぶ。
屋上の柵にもたれかかった少女。
後ろ姿だが、あの赤いリボンに結われた
深い茶色のポニーテールは、彼女のものだ。
しかし、畑中さんが俺の声に
振り向くことは無かった。
聞こえないのかもしれない。
けれど、いくら呼んでも
俺の声が枯れるばかりで、彼女の首は
微塵も動かない。
彼女の携帯へ電話をかけても繋がらない。
ねえ、そこで何をするつもりなの？
俺は焦る。
落ちたらどうするつもり？
何が目的で、そこにいるの？
まさか。
まさか。
俺は駆け出した。
走りながらスマホの画面をタップし、
鈴原に電話をかける。
思い過ごしならいいんだ。
頼むから。
頼むから、間に合ってくれ。
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2019年12月22日 18時
