No.292 ページ41
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私は押し黙る。
「畑中さん、ご飯持ってきましたよ〜」
丁度いいタイミングで、
ニコニコ笑顔の看護師さんが
先程と同様、ワゴンを運んでやってきた。
「あ、ありがとうございますっ」
私は葵の母親の視線から逃れるように
笑顔を絶やさずにワゴンから
トレーを受け取った。
葵のお母さんはまだじっと
私を見ているようだ。
「あ、桐ヶ谷さん、こんにちは。」
「ああ、どうも。」
返事の仕方が親子そっくりだな。
看護師さんは葵のお母さんに笑いかけて
私の元にくる。
「畑中さん、お母さんと連絡着きましたよ。
今から来るそうです」
「ほんとですか！」
やっとだ。
やっとお母さんに会える。
怒られないといいが……。
「……それじゃあ、お先に。
葵、早く支度して降りてきなさいね」
「うん」
葵のお母さんは私の返事を諦めたのか
病室から出ていった。
終始、笑わない人だった。
その後、看護師さんも部屋から出てって
葵も帰る支度を始めた。
葵のお母さんが置いていったバッグの中から
服を取り出して「見ないでね」と言って
私たちを隔てるカーテンを閉める。
「見るか！」
私はその間にご飯に手をつけた。
ふう、緊張した。
葵のお母さん、ちょっと怖かったなあ。
「…畑中さん」
「んー？」
葵はカーテン越しにモゾモゾ動きながら
喋りだした。
「さっきのこと、気にしないでいいからね」
さっきのこと、とは
葵のお母さんに言われたことかな。
「…うん！」
気にしても仕方がないしね。
でもちょっと、ほんのちょっとだけ
葵のお母さんが私を軽蔑しているように
見えて、少し悲しかった。
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2019年12月22日 18時
