No.273 ページ11
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「アイン、代わって。」
「あ、ちょ、おい！しーくん！」
中村はアインから携帯を取り上げる。
そして自分の耳へ押しやると、
いつになく神妙な顔つきで話し出した。
「葵？一体何をするつもりなの？」
その顔は、笑っていない。
携帯の中から『中村…』と声がする。
桐ヶ谷の声で間違いない。
走っているのか、雑音がすごい。
『今すぐ学校に来て！』
「なんで？」
『来たら、プールの水を溜めて。それと
体育倉庫からフライシートを取ってきて。』
「…はあ？」
桐ヶ谷は中村の質問を無視して
早口で話し続ける。
桐ヶ谷がこんなになるなんて、
余程焦っているのだろうか。
『水が溜まったらフライシートを被せて。
角は4人で持って緩ませないで！』
「4人もいないよ、葵も手伝うの？」
『女子組にも声をかける。
三城さんの連絡先教えて』
「ねえちょっと！」
『時間が無い、急いで！』
「葵！！」
一瞬、雑音と共に桐ヶ谷の喉を鳴らす音が
聞こえた。
周りがちらりと大声をあげた中村を見やる。
横でアインが、顔面蒼白になりながら
中村を見上げた。
「何の時間が無いの？
何をしてるの？
何をしようとしてるの？
ちゃんと言って。」
再び賑わう屋台と屋台の間で、中村は冷静を
取り繕いながら再度質問した。
電話越しに、桐ヶ谷が小さく息を吐く。
『……ごめん。
……畑中さんが、屋上にいるんだ。』
「屋上？中学校の？」
『うん。柵に座っていて
今にも落ちそう。
声をかけても聞こえてないし、
もし、…もし落ちたら、死ぬよ。』
自 殺？いや、動機が不明だ。
……そうでもないか。
中村は恵林と2人で話したことを思い出す。
花火の時も、秘密基地のときも
恵林はどこか、何かを悩んでいるようだった。
ジサツでなくても、
危ない状態であることに違いはない。
「今、葵はどこにいるの？」
『学校の昇降口。
もう少しで鍵が開きそうなんだ。』
ということは、恵林が今どうなっているのか
分からないということだ。
そして、今落ちようものなら、彼女の命すら
なくなってしまう。
「……わかったよ。
すぐに行く。」
『うん』
「それと、なんで三城ちゃんの
連絡先じゃなきゃダメなの？」
中村は鋭く言い放つ。
美江のLINEなら桐ヶ谷は持っている。
なぜ和葉でなければいけないのか。
中村には検討がつかなかった。
『……そのうち分かるよ。
じゃあね。』
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2019年12月22日 18時
