第55話：決断 ページ10
フィン「なんだかんだ言っても、僕たちはAさんが心配なんだから。ここに住むことだって、みんな肯定しますし、後はアナタの気持ち次第だよ。」
貴方「……でも、私は皆さんの恩に報いるものを何も持っていません…。」
イース「誰かを助けるのに、恩も返しもいらないでしょ？」
貴方「イースさん…。」
今日会ったばかりのヒトを助けることの出来る彼らは、本当に素敵な方達だ。でも、それに甘えて頼り切ってはいけない。
悩んでいると、私のカバンに入っていたスマホが鳴り始めた。ディスプレイには“Arthur”の文字が映し出されていた。
デン「電話け？出ろ出ろ。」
貴方「あ、はい…。……もしもし。」
促されるまま応答すると、すぐにアーサー先輩の声がした。
アーサー『今、大丈夫か。』
貴方「はい。何か…？」
アーサー『率直に言う。あの話…、カークランド家で済む話については考えてくれたか。あれから、お前とは会えないし、連絡もなくて心配していた。』
貴方「すみません…。考えてはいます。でも……。」
アーサー『勝負のことが気がかりなのか。』
貴方「……。」
アーサー『お前が望むなら、あれは学園という箱庭の中だけの情事にしたって構わない。今解決しなくてはならないのは、お前自身のことだろう。』
貴方「そう…ですね。」
ノーレ達は狼狽える私を見て、不思議そうな顔をする。もうこれ以上、心配をかける訳にはいかない。
貴方「…わかりました。アーサー先輩のお宅でお世話になります…。これから、よろしくお願いします。」
アーサー『ああ。荷物の手配等はこちらに任せてくれ。詳細はまた伝える。それじゃあ、また学園で。』
そう言うと、スマホからはプープーという無機質な機械音が響いた。その画面を見つめていると、フィンが恐る恐る声をかけてきた。
フィン「あの…。今の話って…。」
貴方「うん…。私が、アーサー先輩の家に住むって…。前から提案を受けていたの。もう先送りにはできないし、私は学園での責務もある。これが最善の方法だって信じてる。」
フィン達は顔を見合わせると、それが私の意思であるならば尊重すると言ってくれた。しかし、イースさんだけは終始不機嫌な顔をしていた。
貴方「用意もあるので、私は家に帰りますね。今日は本当にありがとうございました。」
一礼して玄関に向かう私を、4人は姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
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作者名：暁兔 | 作者ホームページ：
作成日時：2023年5月13日 22時
