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955話:人間の時の記憶 ページ41

私の家は裕福だった。なにぶん、国の中心だったから。一国の姫として、父様と母様、姉様、多くの使用人に囲まれた生活。

毎日贅沢な食べ物があり、遊びがあり、
勉強や舞の練習は大嫌いだったけれど
各大名家からの貢物は山ほどあった。

庶民には到底感じえない優越感。
使用人に頼めばなんでもやってくれた。
欲しいものだってすぐ手に入る。
そんな人間時代だった。

ただ、唯一手に入らないものがあった。
それを世間では愛情と呼んでいた。

母様は病に臥せっていて会えない。
父様は、言いなりになる姉様がお気に入りだった。
使用人は、誰もが上辺だけの他人行儀。
いつも私に怯えていた。

家族と手を繋いで街を歩く。
母親に抱っこされたり、撫でられたり、
父親に肩車をされる子供が
この街一番の高さを誇る我が家からはよく見えた。

例えそれが出来なくても、一緒に食事くらいしたい。
一度、使用人に駄々をこねたが
父様は忙しい人だからと、その小さな願いが叶うことはなかった。

いつからだろう。勉強を放棄して
乗馬や格闘術、男の人のように剣を振り回し始めたのは。

反抗すれば、少しは父様に構ってもらえるかもと思った。でも、現実はそう甘くはなくて。私は、嫌われていくことにさえ気付けなかった。


風邪を引いた時、一度も会いに来てくれなかった。
遊んでもらった記憶が無い。
そばに居るのは、いつも冷めた目の使用人だけ。

つらくて、自分本位だった私は
夜中に母様の眠る病床へと入り込んだことがあった。
眠っている母様に向かって、私は言ったんだ。
「生まれて来なければ良かった。産んで欲しくなかった。」と。

父様や母様と少し話すだけでもいい。一目見るだけでもいい。ああ…でも、こんなにワガママばかりな私は、本当に面倒な子供だったのかもしれない。

誕生日はお祝いして欲しい。
字が上手く書けた時には見せに行きたい。
それはきっと、私が悪い子だからしてもらえない。


そうしている間に、私は嫁入りのため東の地へと送られてしまった。母様が決めたことだと、妖怪がまだあまりいないところだと知るまでは、私のことが邪魔だから東へ追いやったのだと思っていた。



でも、でもね。今でも思うの。あの時、姉様みたいに良い子にしていれば良かった。ワガママを言わなければ良かった。
生まれて来なければ良かったなんて、口走るような子供になってしまった自分が憎かった。

思い出したくなかった記憶が蘇ってくる。
私、寂しかったのかもしれない。

956話:果報者→←954話:核



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ぐりーん(プロフ) - 各々の覚悟が見て取れて感情移入せずにはいられないです...🥲続編ありがとうございます🙇🏻‍♀️ (2023年2月4日 17時) (レス) @page26 id: ebeccca8db (このIDを非表示/違反報告)
ももこ(プロフ) - 続きが、出てくれて嬉しいです! (2022年12月22日 8時) (レス) @page18 id: 4b14f6b623 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:暁兔 | 作者ホームページ:   
作成日時:2022年12月19日 14時

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