幼さゆえのコーラルロマンス【梅原裕一郎】 (ページ26)

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これは酒に頼って自らの力で思いを伝えなかった私にとって、当然の報いである。

　大体今まで西山の優しさに漬け込んでここまでずるずると続いていたと言うのに、私はなにか勘違いをしていたみたいだ。いやぁ、気付けてよかった、よかった。

　よかったはずなのに、どうしてだろう。
　大人だなんだと散々言っていた私は今、夜道を泣きながら歩いている。傍からみたら泥酔した人か、単純に不審者かどっちかだ。まあいずれにしろ、優しく手を差し伸べてくれる人などいないし、そもそも人通りが少ないから私の滑稽な姿を見る人間など、存在しないのだ。

　一応芸能関係の人間であるという自覚が、なんとか私の意識を留めさせていた。もし私が一般人だったら泣き喚いて地面にへたりこんでいるだろう。危なかった。

　でも、本当の本当を言うと、誰かに気付いて欲しかったのかもしれない。話を聞いて欲しかったのかもしれない。
　だが、幸いと言うべきか残念と言うべきか、結局誰に会うことなく家に着いてしまったのだ。

　そこからもう浴びるように酒を飲み、耳にこびりついて離れない西山の声をかきけすためYouTubeで適当な音楽を流してそのまんま眠りに落ちた。

　次の日から休みの日にかけての数日間は、私が私でなかった。これでもかと言うほど仕事だけのことを考えて向き合って、その他のことは全部捨て去っていた。それはもう不自然な程に。
　最低限、人間として整えるべきものは整え、それ以外の時間は台本を読むだとか、マネージャーに「仕事を増やしてください」とお願いしスケジュール調整をするだとか、プライベートなど存在しなかった。

　鬼の形相で仕事してるなどと梅原にからかわれたが、そうなるのも納得の打ち込み具合である。

「まぁでも明日は朝早いから、今日ちゃんと寝ろよ」

　別れ際、珍しく梅原が健康的な生活を私に勧めてくる。

「結局どこ行くの？」

「明日の朝になったらわかるって。あっ、でもラインで送ったやつは準備しとけよ」

「割と荷物多めだよね、予想しようか。泊まりで遊園地でしょ」

「泊まりの遊園地で替えの下着持ってこいっていうの、もう目的がハッキリしてんじゃねぇか。違ぇよ」

「そっかぁ、残念」

　さほど残念ではなさそうなトーンで喋ったもんだから、梅原は「感情籠ってねぇな」といつものような小気味よい高笑いをしていた。それが西山のとは全く違って比べるまでもないおかげで、無駄に感傷に浸る余裕もなかったのである。
　
　仕事西山仕事で張り詰めていた私の隙間に梅原はいとも簡単に介入してくる。こういう事がある度、梅原裕一郎という男は侮れないなと改めて思い知らされるのだ。