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今日の僕は、何ひとつとして僕らしさを保てていない。
何が、僕の気持ちをこんなに転がすのだろう？
「江口さん……！？ここは私が払うって......！」
「もう済ませちゃったよ」
「早すぎる……！せめて梅原の分だけは、出させてください」
「今度飲み行ってくれるんでしょ？ その時でいいよ」
どうも落ち着かない。僕の視線の先にはお会計をスマートに済ませる江口さんと、それに対して目をまん丸にしたAが和気あいあいと話している。なんだ、僕以外にもそんな顔するんじゃん。どんな時でも細められた双眸の内側に本当の感情が滲んでしまうAの素直さがとても好きだったのに、今日はどうしてか目を逸らしてしまう。
それはきっと彼女の素直さに訴えかけて、「なんで梅ちゃん家なんて行ったの？」と責め立てたくなるから。
彼女は梅ちゃんのこと「ガキ」だの「有り得ない」だの散々言っているが、実の所背中を預けているのは彼だし、特別信頼しているのを僕は知っている。
だから頭では理解している。何故そうなったのか、流れはよくわかる。むしろ僕がそもそもの原因だし。
なのに、どうして、梅ちゃんじゃなくたって、と縋るような怒りが湧いて出てくるのだ。
そのせいで今日無駄に梅ちゃんに突っかかっちゃったし……後で謝らないとな......こんなの僕らしくない。
そうして一人反省会を開きながら二人の背中を見つめていると、突然背後を取られた。
「なぁ、西山さんよぉ」
「うわぁ！びっくりした！トイレ行ってたんじゃないの？」
梅ちゃんは「何十分もトイレにいてたまるかよ」と薄い唇を上側にひっぱって言った。
随分と自分の世界に没入してしまったらしい。話しかけられるまで梅ちゃんがいるのに全く気づかなかった。これじゃどっちが無防備なのか。
昨日の言動を振り返って自嘲している間、しばし無音が続く。僕と梅ちゃんの間ではよくある事だが、なんだか今回は酷く居心地が悪い。梅ちゃんはじっと僕の顔を見つめ、いつもみたいな仏頂面ではなく神妙な面持ちで言った。
「この歳になってまで、鈍感なふりするのかよ」
「なんのこと？」
裏返りそうだった声をなんとかひっこめて、普段通りを演じることに努める。声優でよかった。本当に。
梅ちゃんはそれでも尚視線を外すことはなく、ただ「馬鹿らしいな」という呆れ顔だけを浮かべ、ふっと息を漏らした。
「西山がその気なら別にいいけど、ほら店出るぞ」
なんで気づいたの？なんて愚問は心で唱えるのすら恥ずかしかった。
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作者名：たれみみ | 作成日時：2024年1月8日 2時
