僕と君の物語【佐野玲於】完結

最後の文字 ページ47

.



5月15日 くもり


昨日から個室になりました。
個室だととても静かで、目を閉じるとすぐに眠たくなります。
5月の頭から始めた抗がん剤治療の副作用で、髪の毛が抜けちゃいました。
鏡には、見たこともない自分がいて驚きました。
こういうのって、本当にあるんだね。

でもこれが、いまのわたし。







5月17日 雨


今日は雨。
外はどんよりと暗いです。








5月21日 晴れ


ぴったりな帽子
お母さんありがとう。









5月29日 晴れ


今日はピクニック日和。
きっと外に出たら気持ちいいだろうな。
でも私は外出禁止だから、どこにも行けない。









5月30日 くもり


メイちゃんがあそびにきてくれた。
すっかり顔色も良くなって、もうすぐ退院みたい。
赤いランドセルも買ってもらったみたいで、ニコニコのメイちゃんでした。

とっても嬉しいことだけど、やっぱりちょっと寂しいな。








6月1日 晴れ


今日お母さんが、れおくんのライブのDVDを持ってきました。
勝手にDVDプレーヤーに入れて、勝手に再生して…


せっかく思い出さないように考えないようにしてたのに、キラキラした笑顔を零しながら踊るれおくんを見ていたら、気持ちが抑えきれなくなりました。
げんきになるようにもってきてくれたのに、涙が出ました。








6月11日 晴れ


ウィッグをロングにしてみました。
地毛でもこんなに長くしたことはなかったので、何だか新せんです。









6月14日 晴れ


れおくんはこんな私とは幸せになれないから、あえて別れる道を選んだのに、他の人と幸せになってねなんていえないじぶんが大きらい。

ごめんね。
いつかいえるようにがんばるから。









6月30日 雨


私もうすぐしぬのかな
いなくなっちゃうのかな

痛いよ
こわいよ









7月1日 くもり


弱音をはいたらだめだと、おかあさんにいわれた。
その通りだとおもった。

こわくなんかない
きっとだいじょうぶ









7月5日 晴れ


さいきん力がでません

もう
かけません










7月10日 晴れ


れおくん、あいしてます









まだまだ空白のページは残されているのに最後の文字が滲んだまま、日記はそこで終わっていた。


彼女の強い意志から力が抜けていく様子まで、この日記を読めば全て伝わってくる。



ごめん。
こんな俺でごめん。




気付けば俺は、声を出して泣いてた。



もう彼女には届かないのに。

それでもバカになるくらい、ただただ泣きじゃくった。

灰色の世界→←きもち

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す