弐拾漆 包帯 ページ37
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先輩が戻ってきたんだ!
人影の方へ駆け寄ろうとすると、「待て」と刃物のように鋭い声で制止された。
走ってきたのは先輩ではなかった。
先程いた場所で、伊作先輩が治療していた雑兵の仲間みたいだ。
「はぁっ、はぁっ……貴方ですか、我々の仲間を救護して下さったのは」
きっと私よりも遥かに体力があるであろう雑兵が息を切らし、憔悴しきった顔で言われ一瞬戸惑うも、すぐに否定した。
「そ、そうでございますか……困った、いや、我が軍の救護所に火の手が回り、多数の怪我人が行き場を失ってしまっておりまして……」
焦るようにきょろきょろと見回す視線が、私が持っていた包帯を向いた。
「そっ、その包帯、少し分けていただけないでしょうか」
申し訳なさそう差し伸べられた手の平は、痛々しいほどに傷だらけだった。
彼に着いてきたのであろう怪我をした雑兵が木々の隙間から顔を覗かせる。
期待した眼差しで見てくるけれど、違う、さっき治療してたの私じゃないって……。
あぁ、もう。
伊作先輩には申し訳ないけど包帯、使い切っちゃおう。
「わかりました、包帯足りる限り手当てしますからこちらへ!! そっちの人達も!!」
「本当ですか、あぁ、なんとお礼を言ったらいいか……!!」
「頭ッ、救護所からなんとか無事な包帯だけ持ってきましたぁ!!」
別の雑兵が持ってきた籠には、包帯が山積みになっていた。
視線を逃がすように雑渡さんの方を見ると、まるで小さい子どもを見守るような微笑ましそうな表情をしていた。
「……なんですか」
「いや、誰かさんと初めて出会ったときみたいだなぁと思って」
意味がわからず首を傾げていると、包帯を持った雑兵が小走りに近づいてきた。
その時だ。
ひゅっ、と音がして雑兵は動きを止め、尻餅をつく。
雑渡さんがまるで手裏剣を打つように手頃な小石を投げた音だった。
「ちょっ、怪我人に対して何てことを……!!」
「治療はするがこの娘に指一本足りとも触れるな、それが条件だ」
「言ってること無茶苦茶ですよ雑渡さん!?」
やっぱりこの人の考えている事はよくわからない。その間にも、背後に雑兵が増え続けていた。
自分でも怪我は日常茶飯事だし、これくらいの手当、すぐ終わらせてしまおう。
雑渡さんの「頑張れー」と間延びした応援を聞き流し、私は振り返って包帯を握りしめた。
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廬。(プロフ) - 最高です……どうか続編頑張ってください……!! (2019年11月1日 13時) (レス) id: af811dac15 (このIDを非表示/違反報告)
鹿子木(プロフ) - ありがとうございます。ご馳走様でした。これからも頑張って下さい。 (2018年10月3日 4時) (レス) id: d5c9836270 (このIDを非表示/違反報告)
よしのや(プロフ) - 妖狐の巴衛さん» そのセリフは雑渡さんの発言になります!! まだまだ小説初心者ゆえ、表現が拙く分かりづらくて申し訳ないですm(_ _)m コメントありがとうございました!! (2018年6月17日 23時) (レス) id: 7e36950532 (このIDを非表示/違反報告)
妖狐の巴衛(プロフ) - 「……尊奈門、忍術学園の忍たまだ」は誰がかけた言葉なんですか? (2018年6月17日 21時) (レス) id: 2ff3e29f1d (このIDを非表示/違反報告)
よしのや(プロフ) - サラさん» ありがとうございます!! そう言っていただけると、すっごく励みになります(=´▽`=) (2018年4月5日 22時) (レス) id: 5bb94c3c23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:よしのや | 作成日時:2018年3月27日 20時