壱拾漆 幻 ページ19
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「ん……父上、母上、おはようござい、ま」
見慣れた寝床の景色が見えて、反射的に朝の挨拶をしようとしてしまったが、目を擦ってもそこに家族の姿はない。
いつもの朝なら美味しそうな朝食の匂いが漂うが、今日は埃と黴の混ざったような臭いが鼻をくすぐってくるだけだ。
「あ……」
昨日の記憶が、瞬く間に頭に流れ込んでくる。
隣家から逃げるように実家へ飛び込み、扉を棒で塞いだあと、蜘蛛の巣がないなるべく綺麗な場所を選んで、縮こまっていた。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
昨日の昼から何も食べていない。
空腹と悲しさと怒りで、どうしようもなく涙が溢れてくる。
「やあ、おはよう」
ついに幻覚が見えだしたか、と思ったが目の前にいるのは本物の雑渡さんのようだ。
医務室のように屋根裏から入ってきたんだろうか、でも今はそれを考える余裕もない。
「今日も天気がいい……目覚めの気分はどうだ」
「最悪ですよ、見てわかるでしょう」
「だろうな」
雑渡さんは、戸の前に乱雑に投げられていた私の荷物を拾い上げ、此方へ手渡した。
「話は後だ、ついてきてくれ」
もう、驚いたり反応する気力もなかった。
手渡された荷物を肩にかける。
「雑渡さん」
「なんだ」
「強い人というのは、こういう時に泣かない人をいうのでしょうか」
「……さあ」
雑渡さんは玄関の引き戸を少し開け、周囲の様子を伺いながら曖昧な返事をした。
「Aちゃんがそう思うのなら、そうなんじゃないか」
「……なんですか、それ」
「ここにいるということは、隣の家には居させてもらえなかったのか」
「……」
「まぁ、下調べの時点でそうだろうと思っていたが」
「……雑渡さんは、どこまで知っておられるのですか」
「少なくとも、今のところはAちゃんよりかは今回の件に詳しいだろうね。
最も、その中心人物は君なんだがな」
雑渡さんは戸を開けると、走るぞ、とだけ言い放ち外へ出た。
あとに続いて家をあとにすると、暗い家の中にいたからか、やけに外が眩しく感じられる。
これから、私はどうなるのだろうか。
頭がうまく働かなくて、ただ雑渡さんの後ろについて走るだけで精一杯だ。
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廬。(プロフ) - 最高です……どうか続編頑張ってください……!! (2019年11月1日 13時) (レス) id: af811dac15 (このIDを非表示/違反報告)
鹿子木(プロフ) - ありがとうございます。ご馳走様でした。これからも頑張って下さい。 (2018年10月3日 4時) (レス) id: d5c9836270 (このIDを非表示/違反報告)
よしのや(プロフ) - 妖狐の巴衛さん» そのセリフは雑渡さんの発言になります!! まだまだ小説初心者ゆえ、表現が拙く分かりづらくて申し訳ないですm(_ _)m コメントありがとうございました!! (2018年6月17日 23時) (レス) id: 7e36950532 (このIDを非表示/違反報告)
妖狐の巴衛(プロフ) - 「……尊奈門、忍術学園の忍たまだ」は誰がかけた言葉なんですか? (2018年6月17日 21時) (レス) id: 2ff3e29f1d (このIDを非表示/違反報告)
よしのや(プロフ) - サラさん» ありがとうございます!! そう言っていただけると、すっごく励みになります(=´▽`=) (2018年4月5日 22時) (レス) id: 5bb94c3c23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:よしのや | 作成日時:2018年3月27日 20時