結婚前夜【緑谷出久】 (ページ16)

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16夜ページ16

轟くんの姿が見えなくなってから数分後、2人でタクシーで僕の住むマンションへ向かった。

僕は運転手にお金を手渡し、タクシーを降りた。

マンション周辺に人目がなかったので、さっきはできなかったお姫様抱っこで玄関まで進む。

一旦お姫様抱っこをやめて真衣ちゃんを片腕で支え、ポケットから出した鍵で解錠する。

再びお姫様抱っこをして寝室に入り、彼女をベッドの上に寝かせた。

ジャケットだけ脱がし、布団を掛ける。

それから「失礼します」と呟いて、彼女の鞄を探った。

鞄から小ぶりのポーチを取り出す。

水色のポーチを開くと、リップなどの化粧品と、探していたクレンジングシートがあった。

僕はそれを手にしてパッケージを破り、寝ている真衣ちゃんの化粧を拭う。

こんなことをしているのも、前に真衣ちゃんがメイクをしたまま寝てしまったことを、凄く後悔していたからだ。

大人の女性にとって、メイクは必要なマナーなのだろう。

しかし僕は、真衣ちゃんはすっぴんのままでも凄く綺麗だと思っている。

彼女のメイクは薄いが、きちんと拭き取った。

それからベッドに腰を掛け、真衣ちゃんの髪を撫でながら、寝顔を見つめる。

ずっと見ていても飽きない、愛くるしい寝顔だ。

彼女の口元がムニャムニャと動く。

夢でも見ているのだろうか。

段々と、僕の瞼も重くなってきた。

僕は電気を消して、そっとベッドの中に身体を入れる。

真衣ちゃんが僕に抱きついてきた。

胸の膨らみが顔に触れる。

子供が母親に抱かれているような格好だったけれど、偶にはこんな格好で眠るのも良いかと、僕はそのまま瞼を閉じた。

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「今日から私は、緑谷真衣」

市役所を出るなり、真衣ちゃんは天を仰ぎ見ながら言う。

「さすがにまだ実感が湧かないけど、日を追うごとに緑谷姓が染み込んでくるんだろうな」

「銀行の通帳の名義変更とかすれば、一気に実感が湧くんじゃないかな」

「確かに！
それをやったら、あっという間に慣れそう。
・・・結婚した場合の名義変更、全部1ヶ所でできれば良いのに。
パソコンでできるとか」

「僕に手伝えることがあったら、なんでも言ってね。
そんな煩わしい思いをさせるのは、緑谷姓にしてもらった僕の我儘なんだから」