結婚前夜【緑谷出久】 (ページ14)

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14夜ページ14

うん、複雑だ。

真衣ちゃんが彼に恋愛感情を持っていないのは百も承知だし、彼も真衣ちゃんをそういう目で見ていない。

ただ、イケメンの名前呼びに照れる婚約者。

見ていて実に複雑な気持ちになる。

頼んでいた料理が到着する頃には、真衣ちゃんのジョッキは空になっていて、彼女はおかわりを注文した。

真衣ちゃんがこんなペースで飲むのは初めてだ。

婚約祝いをしてもらえたのが、本当に嬉しかったのだろう。

そんなこんなで、色々な話をしながら飲んで食べ、時間を過ごした。

すると、轟くんが真面目な顔になる。

「・・・なあ、真衣」

「ん？」

真衣ちゃんはレモンサワーを飲みながら、轟くんに応じる。

多分、3杯目。

目が心なしかトロンとしている。

轟くんも3杯目のビール。

彼はアルコールに強いようで、何の変化も見られない。

ちなみに僕は2杯目の途中である。

「緑谷のこと、よろしくな。
こいつは俺のヒーローなんだ」

「と、轟くん！？」

僕はギョッとしながら彼を見る。

「・・・デクじゃなくて、出久くんがヒーローなの？」

真衣ちゃんはジョッキを置いて尋ねた。

「ああ。
こいつのおかげで、今の俺があるんだ。
実はこの顔の火傷、母につけられてな。
母がおかしくなったのは、親父のせいで。
だから俺は、炎の力を使わずに、氷だけでプロヒーローになることを目指した。
でも緑谷が、高1の時の体育祭で俺を救ってくれた。
そんなのは間違ってるって。
この炎は父親の力じゃなく『キミの力』だって」

懐かしい。

確かに、そんなこともあったな。

「そのおかげで、親父は嫌なヤツだけど尊敬できるヒーローだって気付けたし、再び母と向かい合えた。
だから俺にとって緑谷は、親友であり、ライバルであり、最高のヒーローでもある。
自分じゃ自覚ねぇけど、俺は恋愛に疎いってよく言われる。
なのに真衣と出会ってから緑谷、毎日幸せそうで。
恋愛に興味ない俺ですら、恋人って良いもんだなって思った。
だから、これは緑谷の友達としての頼みだ。
緑谷のこと、よろしくな」

真衣ちゃんは轟くんに対して静かに頷いて、それから僕を見た。

「出久くん、本当にみんなから愛されてるんだね」

ふふふ、と幸せそうに笑う真衣ちゃん。