結婚前夜【緑谷出久】 (ページ12)

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12夜ページ12

呼び鈴を押す。

ドアが開き、母が顔を出した。

「あ、あの！
出久さんとお付き合いしている陽冨真衣です。
よ、よろしくお願いします」

真衣ちゃんはそう言って、深く頭を下げる。

僕は彼女がそんなに早口で喋るところも、声が上擦っているところも、見るのは初めてだった。

そして1つ予想外の事態が起きる。

「こ、ここここ、こんにちは！
い、出久の、母の、緑谷引子です！！」

母の緊張具合だ。

多分、真衣ちゃんと同じレベルでガチガチである。

〝多少は母も緊張してるんだろうなー〟と思っていたが、まさかここまでとは。

「ま、まあ、立ち話もなんだし。
とりあえず中入ろ？」

このままでは何も始まらないと思い、2人を促した。

「改めまして。
こちらが今、僕がお付き合いしている陽冨真衣さんです。
今日は結婚の報告をするために、来てもらいました」

リビングで、机を挟んで向かい合って座る母と真衣ちゃん。

2人の緊張が伝わってきて、僕の額に嫌な汗が浮かぶ。

もっと気楽な雰囲気になると思っていたのに。

何なんだ、この緊張感は。

「は、はじめまして。
陽冨真衣と申します。
出久さんの事務所の経営部に勤めていて、3年ほど前から真剣にお付き合いをしていました。
本日は、結婚のご報告に伺い「出久を、」・・え？」

「出久を、よろしくお願いします」

真衣ちゃんの言葉を遮り、深々と頭を下げる母。

「お、お母さん！？」

あまりの急展開に、僕は思わず母を止めに入る。

母は僕を無視して続けた。

「出久は凄く凄く、責任感が強い子なんです。
それに人一倍、みんなを助けたいって気持ちが強い。
目の前の人を救うためなら、自分の身なんて省みないんです。
だから貴女は・・・陽冨さんは、普通の人なら傷つかない場面で、傷ついてしまうかもしれない。
普通の人より、辛いことが多いかもしれない。
でもどうか最期まで、出久を支えてやって下さい」

涙を浮かべずにはいられなかった。

そうだ。

僕はずっと、母に迷惑をかけてきた。

生まれた時は無個性で、周りの人からは馬鹿にされて。

でもある日、いきなり個性が使えるようになって、その個性は自分自身も傷つけてしまう諸刃の剣で。