結婚前夜【緑谷出久】 (ページ11)

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11夜ページ11

子供は多分男の子で、5歳くらいだろうか。

子の右手を父親が、左手を母親が優しく握って歩いている。

良い光景だった。

「子供ができたら、私もあんな風にしてここを歩きたいな。
もちろん、デクのコスチューム風の服を着せてね」

「僕のコスチューム、子供が嫌がらないといいけど」

「嫌がるわけない。
だって出久くんのDNAが入ってるんだよ？
ヒーローが大好きな、優しくて強い子に決まってる」

その言葉に、少し照れてしまう。

思わず歩く速度を速めると、あっという間に遊歩道の端に着いてしまった。

「さて、これからどうしようか。
ベンチに座って話す？
それとも、どこか遊びに行く？」

「ううん。
家に帰って、明日のシュミレーションをしましょう。
明日、出久くんのお母様が鋭い質問をしてくるかもしれない。
だから、それに備えて答えを用意しておくの」

「鋭い質問って・・・例えばどんな？」

「大人気ヒーローデクをどのようにして支えていくのか、共働きできちんと子育てができるのか、とか。
具体的な方法を考えておかないと。
子供の教育方針なんかも訊かれるかも」

「いや、だから、母はそんな質問はしないよ。
真衣ちゃんのご両親だって、そんなに突っ込んだ話はしなかったよね」

「お母様がそんな方でないっていうのは、よーく分かった。
でも、念には念を入れておいた方が良いでしょう？
私は将来のことを何も考えていない女だと思われたくないの。
さあ、帰りましょう」

真衣ちゃんは僕の手を引っ張って帰路を辿る。

強い力で引っ張られながら、僕は考えた。

僕たちはどちらも主導権を握りたがるタイプではないから、かかあ天下にも亭主関白にもならないと思っていた。

しかし、結婚後は何かを決める時は真衣ちゃんが発言して、僕がそれに従う可能性が高いんじゃないか。

何となく、そんな気がしててきた。

「ほら出久くん、しっかり歩いて！」

「うん、分かったよ」

もう既に、その形は出来上がっているのかもしれない。

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翌日、真衣ちゃんはやたら緊張していた。

昨日彼女が言っていた通り、右手と右足が同時に出かねないくらいに。

家を出てから僕の実家に着くまで、彼女は試合前のアスリートのように、何度も深呼吸を繰り返していた。