結婚前夜【緑谷出久】 (ページ4)

今日:3 hit、昨日:13 hit、合計:52,371 hit

4夜ページ4

「今から僕が『OK』って言うまで目を瞑っていて欲しいんだけど、いいかな？」

暫くの間、真衣ちゃんは意味が分からないという表情をしていた。

しかし徐々に、好奇心旺盛な子供の笑みのように、口角を上げていく。

「えっ、何？
何をしようとしてるの？」

「兎に角、僕がいいって言うまで目を閉じていて欲しい。
いいかな？」

僕は目を瞑った真衣ちゃんの手を握り、ベンチの前まで優しく引っ張っる。

真衣ちゃんに身体の向きを変えるように言い、ベンチに腰を下ろさせた。

彼女の左手を握ったまま僕は彼女の前に跪き、ポケットの中から指輪を取り出す。

決心の深呼吸をし、口を開いた。

「真衣ちゃん、目を開けていいよ」

彼女はゆっくり目を開く。

僕に合わせられていた視線が、差し出されている指輪へ移動した。

「僕はずっと真衣ちゃんの側にいるから、キミにもずっと、僕の側にいて欲しい。
僕の瞳が永遠に閉じるその瞬間まで、誰より真衣ちゃんを愛し続けることを誓う。
・・・結婚しよう」

真衣ちゃんが口を開くまでの僅かな時間が、悠久のように感じられた。

僕と指輪を交互に見ていた彼女の顔が、見たこともない表情へ変わっていく。

この顔を、悲しみに暮れさせることがあってはならない。

何度でも、こんな顔にしてみせる。

僕は固く誓った。

・

・

連休明けは身体が重い者が多いのだろう。

皆、遊び疲れや家族サービス疲れといった顔をしている。

そんな中、真衣ちゃんは満ち足りた表情をしていた。

彼女の明るい表情を見た同僚が「陽冨さん、何か良い事でもあったの？」と笑って訊ねていた。

あのプロポーズの後、2人で僕の自宅に帰り、ベッドで愛し合った。

今までとは違う感覚が僕を包んでいたけれど、たぶん彼女も同じだろう。

真衣ちゃんはプロポーズ直後に話した僕の個性の秘密に驚きはしたが、すんなり受け入れてくれた。

翌日はちょっと値の張るレストランで、未来の展望を語り合った。

その中で、いつ双方の両親に挨拶へ行くかという話が出た。

話し合いの末、来週の日曜日に真衣ちゃんの両親のところへ、再来週の日曜日に僕の両親へ挨拶に行くことになった。

午前の業務が終わり、昼食の時間となる。