桜吹雪【轟焦凍】 (ページ10)

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笑顔は、上手く作れていただろうか。

彼女の頭上に向きかける視線を、意思を強く保って彼女の顔に固定する。

俺の様子に気づいているのかいないのか、彼女は、どこか幼さを感じさせる悪戯っぽい微笑みを浮かべた。

「どうです？
カップルでボートに乗ってみて、別れたくなしました？」

「そうだな・・・」

動揺する俺に、彼女は小さく声を立てて笑うと、「冗談ですよ」と続ける。

「もともと、無理を言って付き合わせてしまったんですから。
ちょっと作為的ですし、一般的な証明にはならないですけど、私たちについては『ボートに乗ったら別れた』というジンクスは正しかったことにしましょう」

そう言って、彼女は雪解けの季節のような温かな微笑みを浮かべた。

「付き合わせてしまってごめんなさい。
短い時間だったけど・・・楽しかったです」

「・・・俺も、とても楽しかった」

かなり混乱はしていたけれど。

あるいは、混乱していたからこそ。

彼女との時間が楽しかったというその言葉は、確かに俺の本音だったと思う。

「もし、次の彼女さんが嫌がるようでしたら、私のことはカウントしないでくれて構いませんから」

そう告げると、彼女は「それじゃ、またどこかで」と背を向けた。

一歩一歩遠ざかっていく背中は、どこか凛々しい。

その背中に掛けるべき言葉を思い付けないまま、俺は情け無く棒立ちで彼女を見送ることしかできなかった。

そして、彼女の頭上に浮かぶ「300」はやはり錯覚などではなくて。

彼女の姿が見えなくなるまで、俺の視界なら消えてくれはしなかった。

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～298～

奇妙な出会いの翌日は、瞬く間に過ぎた。

入学の諸手続きや、オリエンテーションを担当さひる上級生からの諸連絡。

大量の書類との格闘に、俺は前日の衝撃を思い出さずにいることができた。

そして、二日後の四月一日。

奇しくも、エイプリルフールと呼ばれる日。

この日は、上級生の主催で、同じクラスになる人たちとの懇親会が設定されていた。

俺たちの大学では、選択した「第二外国語」に合わせてクラスが編成され、専門課程に進学する前に教養科目を学ぶ。

入学時に「医学部コース」に入っている場合はほとんど医学部の専門課程に行くのだが、教養科目を学ぶうちに他の分野に興味が湧く人もたまにいて、そういう人は他の専門に移ることもあるそうだ。