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「えっとね。
迷ったんだけど、結局三つに絞ったかな」
「・・・は？」
「文芸サークルでしょ、ピアノの会でしょ、それと演劇サークル」
指折り数えつつ、何でもないことであるかのようにさらりと口にする。
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
「本当はロボコンとかもやってみたかったんだけどね」
「・・・あのな、実羽。
授業は今のところ全部出てるんだよな？」
「失礼な。
ちゃんと出席してます！」
呆れと畏怖が七対三の割合で配合された気分になりつつ、俺は彼女の話の続きを聞いた。
よく見る人生の教訓の一つに『人間に与えられている時間は平等であり、誰であれ一日二十四時間である』というものがあるが、彼女のエネルギッシュさをみていると、例外もあるんじゃないかと疑いたくなる。
そんなふうに雑談をしながら歩いていて、俺はふと、漂ってきた匂いに気を取られた。
「轟くん？
どうしたの、急に立ち止まったりして」
「この匂い・・・」
「え？」
「何だ、これ。
甘い匂いがしないか？
お菓子みたいな」
「・・・そう？
気づかなかったけど」
目を閉じ、突き出した鼻をくんくんとさせた実羽は、「うーん」と小さく唸ると高い鼻梁を押さえる。
「・・・鼻が詰まってるのかな」
「風邪か」
「・・・どうだろうね。
それより今、スイーツって言ったよね？」
スイーツではなくお菓子と言ったのだが、追及すると地雷を踏みそうだ。
出処を求めて視線を巡らせた俺たちは、少し離れたところにクレープショップがあることに気が付いた。
元から元気そうだった実羽の表情が、一際パァッと明るくなる。
明るくなった後、今度は腹のあたりを押さえて悩み顔。
くるくる変わる表情は万華鏡のようで、公園で俺に声を掛けてきた直後の、あの落ち着いた雰囲気の女性と同一人物であるということが疑わしくなってくる。
初対面の相手に声を掛けるということで、あの時はかなり緊張していたのかもしれない。
一人で百面相をした後、彼女は意を決したように頷いた。
「ちょっと待ってて、一つ買ってくる」
「・・・俺の記憶が確かなら、さっき一緒に昼ごはんを食べたばかりだと思うんだが」
「『甘いモノは別腹』って言葉を考え出した人、ノーベル平和賞を受賞してもいいと思うんだよね」
ノーベルと食後のコーヒーゼリーに謝れ。
「それに、私たちは学園祭でスイーツの模擬店をやる。
つまり、スイーツ研究は必須だよ」
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作者名：ゆん | 作成日時：2018年7月20日 22時
