桜吹雪【轟焦凍】 (ページ15)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:2,860 hit

、、ページ15

髙橋とも、合宿で同じ班だったためによく喋るようになった。

活動的な性格とさばさばした姉御肌の口調が、親しみやすい。

「せっかくだから、第二外国語をしっかりやってみようかと思ってな。
ドイツ語の授業を多めにとる予定だ」

日本に西洋医学が流入してきた時にドイツ語が主に使われていたらしく、「医者になるなら、大学で学ぶ外国語はドイツ語」という勝手なイメージがあった。

最近では論文やカルテに英語や日本語を使っているそうなので、ドイツ語を選ぶ必要性はなくなっているらしいのだが、そもそも「カルテ」というのがドイツ語で「カード」の意味であるように、医学用語の端々にドイツ語が残っているのだそうだ。

さて、うちの大学のクラスは履修する外国語の選択によって振り分けられる。

つまり、俺のクラスメートはみんなドイツ語選択者だ。

選択した外国語によって女子の比率が異なるらしく、結果としてクラス内の女子の人数も変わってくるため、「女子の多い言語を選んでおけば良かった！」と血の涙を流す男子が毎年のように出るらしい。

そもそもうちの大学は理系の女子率が控えめで、特に女子の少ない理工学部コースは「男子大学生」と冗談混じりに呼ばれることもあるそうな。

やや失礼な冗談を思い返していると、髙橋がなにやら嬉しそうな、というよりはからかう気満々の表情で思わせぶりなことを言った。

「そっかぁー。
轟くん、二限空けてるんだ？」

何かを勝手に納得したらしくうんうん頷き、ぴっと立てた親指を突き出してくる。

SNSの運営会社の人が見たら、きっと「いいね！」のマークに使いたくなると思われる見事なハンドサインだった。

「うちは応援してるから！
頑張ってね！」

・・・頑張るのは二限の授業を取らない俺ではなく、授業に向かうお前らでは？

そんな疑問が脳裏を過ぎたが、慈愛以外の成分が混じっていることが丸わかりの微笑みを浮かべる髙橋と、「あ、察し」と妙なことを呟いてニヤニヤした表情を浮かべ始めた植原に確かめることもできず、俺は首を捻りつつ食堂へ向かうのだった。

まあ、結局、すぐに疑問は氷解することになるのだ。

食堂に入るなり見知った顔を見掛け、Uターンして退避行動を取ろうとした俺は、その前に相手側にも気付かれてしまった。

「あれ、轟くん？」

芝生を見渡せる窓際のテーブル席に腰掛けていた彼女は、驚いたように切れ長の瞳を見開く。