四獣の王【usss】 (ページ7)

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初めこそ先を歩いては振り返っていたたぬきだったが、途中からは私にペースを合わせて歩いてくれるようになっていた。
1人じゃないからか、気持ちに余裕の出来た私はたぬきに時々話しかけていた。
ご主人は優しいのか、なぜ夜に出歩いていたのか、好物はなにか。
何を聞くにしても元気に「きゃう！」と返事をしてくれるのが可愛くて、会話が成り立っているかはどうでもよかった。
話に夢中になっていると、ふとたぬきが歩みを止めた。
それに習って私も立ち止まる。

『どうしたの？お家この辺り？』

たぬきを上から覗き込み聞いてみるが、一点を見つめて返事をしない。
私もたぬきの目線の先に目をこらす。
するとそこには見たことの無い黒い塊が。

『ひっ…』

一気に血の気が引き、一歩後ずさる。
ゆらりゆらりと近づいてくる塊にたぬきは毛を逆立て威嚇する。

『た、たぬきちゃん、逃げよ？』

何かは分からないが小さなたぬきが太刀打ちできるモノでは無いと思い、必死に言葉を絞り出す。
だがそこで、目の前にいるたぬきが大きくなっていることに気付いた。
肩に乗るくらいの大きさだったのに、今では私の膝あたりまで大きく、まるで風を纏っているかのようにたぬきの周りにだけ風が吹いていた。

何が何だか分からなくなった私はとうとう腰を抜かし、その場に座り込む。
ただただ目の前の光景が怖くて、自然と溢れる涙で視界がぼやける。

「ガウッ！！」

たぬきが吠えたのを合図に一斉に黒い塊がこちらへ飛んでくる。しかし、たぬきは一つも逃がすことなく噛みつき、叩き潰していく。
一定の距離を保ったまま攻防を繰り広げる姿は、きっと私を守ってくれてるんだと強く感じる。

しかし、想像よりも塊の数が多いのか段々息が上がってきている。
大きくなったとは言え私より小さい事には変わりない。
ずっと守られたままでいいのかと、震える体にムチを打ち立ち上がる。

『やめて！』

ばっとたぬきの前に出て両手を広げる。
膝は笑ってるし手だって広げきれてない。それでも守られてばかりは嫌だと思い。必死にたぬきを庇う。

容赦なく飛んでくる黒い塊に目を瞑って衝撃を待つ。
が、想像していた衝撃はなく、代わりにフワフワとした物に包まれている感覚がして目を開ける。

私の体は全身茶色の毛に包まれており、かろうじて見えた隙間からは薄い板のような物が輝いていた。

「よくやった、やまだぬき」

聞こえてきたのは、昼間聞いたあの声だった。