２ ページ27
ところが、爪が桟で滑って体は地面へ真っ逆さま。
空中で体勢を整えた猫の俺は見事にレンガの花壇へ着地した。
「‥カイくん！？」
窓からずっと会いたかった人の顔が覗いた。
―ぬな！
呼んだ声は何ともまあ間抜けな「にゃぁ」に変わって、
ぬなの姿が見えなくなったかと思うと、パタパタパタ‥駆ける足音にガチャ、勝手口の戸が開いた。
「だいじょうぶ？」
彼女が俺に近づいて花壇の傍にしゃがんだ。
平気、告げた言葉はやはり「にゃぁ」で、でも、安心した彼女はふわり、微笑んで俺の頭から背中のラインをひと撫で。
その瞬間、視界は光でいっぱいに包まれた。
ぬなの温もりとぬなとの記憶が心に広がっていく。
そう‥ぬなと“カイ”の想いが。
『にゃー(エサをくれ)』
『にゃー？』
『にゃーにゃー(だから、エサ！)』
『にゃーにゃー？』
『にゃー！！』
腹が減って、それなのに、この目の前のぬなにはちっとも伝わらない。
イライラ‥
―ああ、これは。そっか、おれ今こいつになってんだ。
新しい家の主と家に住み着いている猫の出会い。
『Aー、元気？調子どう？？』
『ミチー！元気だよ』
嘘ばっかり。
お面を張り付けたみたいな笑顔。ちっとも楽しそうじゃない。
お客さんがいないとき、こっそり溜息ついてるの、知ってるよ。
泣くことも叫ぶことも、笑うこともない。
…ぼくに、なにができる？
―傍にいるじゃんか、一緒にごはん食べて、話して。
月末の土曜日、ジャズバーが開かれる。
「よう、カイ！今日もマスターをよろしくな。」
「にゃ！(もちろんさ！)」
この日だけは、おそくまでぬなと一緒に居られる。
ぼくがいっとう楽しみにしている日。
ぬなもいつもより少しだけうれしそう。
―そうだな、一人で過ごす夜は、淋しいもんな。
そして、続いていく日々。
同じようで決して同じではない、違う毎日。
ある日は庭に出て。
温室育ちと言われる、手のかかる薔薇たちに惜しみなく与えられる彼女の愛。
枝が伸びれば添え木をし、虫がつけば丁寧に消毒を、
枯れた葉はやさしく取り除いて、根元に多すぎず少なすぎず水を与える。
開いた花に顔を綻ばせる彼女を見守る猫のカイ。
またある日は、キッチンで。
室温を気にしながら届いた茶葉を缶にそっと詰めて行く。
ハーブはスプーンで掬い、慎重に秤にのせ、ブレンド。香りを確かめる。
ガラスのポットでうまく花が開けば、また綻ぶ彼女の横顔。
勝手口からそんな彼女を見上げる猫のカイ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 97人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ageha(プロフ) - なな子さん» なな子さん、ありがとうございました(^^) うまく書けるか分からなかったですけれど、ちゃんと伝わって良かったです!!きっとまた会えると信じて…(*^^*) (2015年11月2日 18時) (
レス) id: 637dbcfcc6 (このIDを非表示/違反報告)
なな子(プロフ) - ひょっこりどころじゃない(TT) 涙の海にオボレマシタ。。。来世でも逢いたい。。。 (2015年11月2日 10時) (レス) id: 0b45d56dd5 (このIDを非表示/違反報告)
ageha(プロフ) - もっちさん» もっちさん、こんばんは^^早速お越しくださり、ありがとうございました！完結してからも沢山の方が読んでくださるようで、アンコールを書いてしまいました。またお付き合いください!!そして、ツイの方も是非どうぞ(^-^)/ お待ちしております♪ (2015年9月23日 22時) (レス) id: 637dbcfcc6 (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - そして…実は…先程ツイの方にお邪魔しに行きながらも…変態なおばぺんなので(笑)まだ声かけ恥ずかしい！！とフォローお願いせずに戻ってきてしまいましたf(^^;また、勇気をだして！？フォローのお声かけさせていただきますね？m(_ _)m (2015年9月23日 2時) (レス) id: bd62209fae (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - こんばんは(^ー^)agehaさんはお気に入り作者さんとして登録済みなので更新情報が上がってて,早速来ちゃいました(^ー^)猫のカイくん、いよいよ猫の姿からの変化？アンコールもドキドキです！更新ありがとうございます(^ー^) (2015年9月23日 2時) (レス) id: bd62209fae (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ageha | 作成日時：2015年3月23日 14時
