Miracle de Decembre (ページ6)

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一方、彼女とは校内ですれ違う度に二言三言話すようになった。

「今日、午前中にレッスンがあったよ」
「月例で歌の評価が上がったんだ」

そんな些細な報告だったけど、それでも、彼女から言葉が返ってきて、会話として成り立つようになったのは、随分な進歩だ。
何より、彼女と話すことで、僕は今、夢に向かって確実に、一歩ずつ、前進しているのだと実感できた。
それは精神的に大きな支えとなっていた。

そして、春休みになった。

本格的にレッスン漬けの毎日に僕はのめり込んでいった。
あの日の彼女の言葉が何にも勝る原動力となり、渇いた喉を潤すように、教えられるものを次から次へと吸収していった。
スキルが一つずつ身につくたびに、少しずつ自信も湧いてきた。

学校で春期講座を取るという選択をしなかったため、彼女との会話はもちろん、彼女と会うことも気づけばなくなっていた。
それでも、僕は……、
心の奥で彼女と繋がっていると信じていたんだ。

しかし、新年度を迎え、久しぶりに学校の敷地に足を踏み入れたそこに彼女はいなかった。
連絡を取りたいと思って携帯を鞄から出したとき、彼女の連絡先は勿論、学年や学部すら知らないことに気づいた。
僕が近づいたと思った二人の距離は、最初から交わっていなかったのかもしれない。

否、違う。

確かに僕らはあのとき同じ想いを抱えていた。
彼女の性格を考えると、僕が歌手になると本気で信じていたからこそ、自分のことは何一つ明かさなかったのだろう。
これは推測ではなく、確信だ。

――今、僕はステージに立っている。

あれから五年、終ぞ君に会えないまま、僕は夢を叶えた。
そして、この夢はまだまだ続いていく。
僕は変わった。
メンバーたちが僕との間に本当の友情や信頼を感じているとすれば、それは彼女が僕を受け止め、信じてくれたからだ。

今なら、堂々と君に伝えられる。

「僕は、あなたを愛している。」

彼女と過ごした四カ月が今も僕を支えている。
きっと彼女はどこかで僕の姿を見ていてくれていて、その事実がこれからも僕を支えていく。
過去に戻りたいわけじゃない。

けれど、もう一度、君に会うことができるなら……僕は君を放さない。

だから、せめて、この曲を歌う瞬間だけは。

君だけを想って、
あの日に還って、
歌わせてほしい。

『Miracle de decembre』

この歌を君に捧げる。

―完―