Miracle de Decembre (ページ2)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:12,436 hit

2 ページ2

翌日、教養課程の講義を受けに大講堂へ向かえば、昨日の昼休みにぶつかった彼女が座っていた。

「隣、いい？」
「どうぞ。……って、昨日の」
「そう、昨日はごめんね。
　お財布拾ってあげられなくて」

本に集中していた顔を上げ、彼女は驚いたように目を丸くした。
まさか昨日の不躾な男がいるとは思わなかったのだろう。
女子たちがキャーキャー言う笑顔で改めて謝罪を伝えれば、「別に。」とだけ短く返ってきた。
そして、再び彼女の視線は本へと戻されたのだった。

その一連の流れに、僕は面白くないと頬を膨らませる。
それと同時にこうも思った。
「俺に靡かない女なんてあり得ない」と。
スポーツ万能、イケメン、歌も上手い。語学堪能。
つまり、文武両道だ。
周りが放っておくはずない。
そうして、僕の不毛な戦いはゴングを鳴らしたのである。

今振り返ると、そんな天狗になっていた当時の自分を殴り飛ばしたくなる。
けれど、本当にあの頃の自分は自身でも恥ずかしいと感じるくらいに思い上がっていたのだ。

それから、事あるごとに偶然を装っては彼女と喋る機会をつくった。
案の定、彼女は一筋縄ではいかなかったが、それでもめげなかった。
ただ、なかなか進展しない間柄に、とうとう思い切って本人に直接聞いてみることにしたのだ。

「ね、俺って恰好良いと思わない？」
「…は？何いきなり。」
「そのまんまの意味だよ。
　これでもSMにスカウトされたし、女の子にはモテる方だよ？」
「知ってる。
　確かにアンタはイケメンだと思う。
　でも、わたしのタイプではないわ」

衝撃的だった。
脳天に雷が落ちたかと思った。
大げさかもしれないが、本気でそう感じたのを覚えている。
僕は、しばらく固まっていたようだったけれど、彼女が「じゃぁね」と立ち去る気配に慌ててその手を掴んだ。

「待って、行かないで。」

そして、縋ったのだ。
俺に足りないものを教えてほしいと。

．