カレシの事情 (ページ10)

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帰宅するなり、テンションの高い母が駆け寄ってきた。

「ねぇ、ジュンミョン！
　いつになったらAちゃんを紹介してくれるの？」

バシンと背中を叩かれ、思わず咳き込む。

「何で知ってんの‥」
「あら小中と一緒だったじゃない！
　陸上で全国へ行ったんでしょ？凄いわよね！
　年賀状もくれたし、挨拶もしてくれたし、
　てっきり付き合ってるのかと‥」
「はぁ！？Aはそんなんじゃないし！」
「えー？あなたそんなに奥手だったかしら？」

どうしてそうなる。

「ってか、会ったの？」
「この間市役所で偶然ね！
　“いつも仲良くしてくださり、
　ありがとうございます”って。
　礼儀正しいわ。
　女子大に行くんでしょ？
　離れ離れになっちゃうわね‥」

人から言われるとどうしてか現実味を帯びてくる。

「Aに出かけないかって誘われた。」
「Aちゃんから聞かれたわ。
　“お誘いしてもいいですか？”って。
　可愛いわね。
　お嫁にするなら彼女みたいな子が良いわ～
　ジュンミョン、ちゃんと掴まえるのよ！！」

だからどうしてそうなる。
そして、A。
それじゃ立場が逆だろ。

「‥とまぁ、そんなわけで母親と一戦やらかした。」
『それは余計なことしたね。ごめん。』

寝る前に電話でAに文句を言うと、ちっとも悪びれてなさそうな謝罪が返ってきた。
どことなく楽しそうな声だから何も言えなくなる。

「で、どこ行きたい？」
『んー、観たい映画があるんだ。』

それから車を出すと言う彼女を心配だからと宥めて当日は電車で行くことに。
卒業式より一週間前の日曜日にしようと話し合った。

約束の日、彼女を家まで迎えに行く。
駅でいいと遠慮していたが、「デートなんだからいいでしょ」と言えば、受話器の向こうで彼女は小さく頷いた。

彼女の家は、中学校からの下校途中に見える。
地元じゃよく知られた社宅だった。

約束の時間丁度、エントランスから彼女が出てきた。
場所は知っていたが、号室まではさすがに知らないから助かる。

「おはよう、ジュンちゃん。」
「おはよう、A。」

白ニット、スキニー、チェスターコート。
デニム姿を初めて見たが、よく似合っている。
が、襟がざっくり開いていて首元が寒そうだ。

「これ、つけたら？」
「‥ありがと。」

自分のしていたマフラーを彼女にかけた。
うん、良い感じ。
目を見開く彼女の手を引いて駅へ向かった。

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