ダズル 2 (Kei)

56 ページ6

***









ゆっくり離れていく先輩の顔。

おでこに残る熱い感触。









.









「…っ。」









…勘違いしそうになる。









.









もしかしたら、先輩は

私のことが好きなんじゃないかって。









.









先輩の顔が離れた瞬間の見下ろすような視線に、

”ナニか”が溢れだしそうになる。









.









「野良猫のくせに…生意気です。」

慧「Aの猫だからね。」









.









照れ隠しで

可愛くない言葉を発する私。









だけど、先輩は相変わらずの笑顔で

のうのうと言ってしまう。









.









本当、ズルい。

先輩には、敵わない。









勝ったことがない。









.









先輩のTシャツの布地をきゅっと掴む私に、

とろける視線を私に向ける先輩。









ぽんぽん、と頭を撫でられて。









先輩の首筋に顔を埋めたら、

汗ばんだ肌から先輩のにおいがした。









.









「…ごめんなさい。」

慧「ふはっ。だからいいって。」









.









ポツリと呟いた謝罪の言葉。

どこまでも可愛くない、私の態度。









先輩はそれを軽く受け流しながら

長い指を伸ばして私の目頭を撫で上げた。









.









慧「俺の方こそ不安にさせてごめんね。」









.









背中に先輩の腕が回ってきて、

トントンと撫でられる。









.









とんとん。

とんとん…









まるで赤ちゃんをあやすような手つき。

泣き疲れたせいか、少しずつ重くなっていく瞼。









手の動きは少しずつゆっくりになって…









.









慧「…A、しっかりつかまってて?」

「へ…」









.









どこにそんな力があったのか。









細い脇の下に腕が入り、

その直後、ふわりと持ち上がった体。









.









「ひゃ…!」









.









私は思わず手を首に回し。

先輩は、私を寝室へと運んだ。









***

57→←55

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す