陸 ページ9
「そ...それで、三人の今日のお仕事は」
本の話題作りの為だけに口を開いたんだろう。
けれど、其れが後に物語を大きく動かす切っ掛けになってしまう事を少年中島敦はまだ知らなかった。
「“虎探し”だ」
「……虎探し?」
...明らかに、敦君の纏う雰囲気が変わった。
「近頃、町を荒らしている『人食い虎』だよ。倉庫を荒らしたり畑の作物を食ったり好き放題さ。
最近此の近くで目撃されたらしいのだけれど___」ガタッ。
敦君が椅子から転げ落ちて、「ぼ、ぼぼ、僕はこれで失礼します」と、明らかに何か腹に一物抱えている様子で地べたを這った。
「待て」其れを私達が見逃す筈も無く、独歩が襟首を掴んだ。
「む、無理だ!奴___奴に人が敵うわけない!」
鬼気迫ったその様子に独歩が容赦なく付け入った。「貴様、『人食い虎』を知っているのか?」
「あいつは僕を狙ってる!殺されかけたんだ!この辺に出たなら早く逃げないと___」
敦君の言葉を遮って、独歩が彼の足を掛けた。敦君の身体はあっという間に支えを無くして地面に倒れ込む。
「...流石、社長の一番弟子」
「云っただろう、武装探偵社は荒事専門だと」
敦君には悪いけれど、私はつい笑みを零してその様子を眺めていた。
「茶漬け代は腕一本かもしくは凡て話すかだな」けれど、敦君の腕が折れそうになった時には流石に止めに入った。
「独歩。その辺にしておいてあげて」
「...A」
「情報収集を尋問にする癖、直した方が良いわ。つい先日社長もそう仰っていたじゃない」
「ふん」
私は敦君をもう一度椅子に座らせ、落ち着かせる為に緑茶を飲ませた。
「それで?」
一息ついた後、人当たりのいい二つの笑み(私と、治のもの)に囲まれて、敦少年はポツリポツリと語り始めた。
「うちの孤児院はあの虎にぶっ壊されたんです。
畑も荒らされ倉も吹き飛ばされて___死人こそ出なかったけど貧乏孤児院がそれで立ち行かなくなって口減らしにに追い出された」
彼の胸中は計り知れない。私は少しの気休めになるのだろうか、と敦君の背中を撫ぜた。
卓上の湯呑みはまだ湯気を吹いていた。
「…そりゃ災難だったね」
「それで小僧。『殺されかけた』と云うのは?」
「あの人食い虎___孤児院で畑の大根食ってりゃいいのに....ここまで僕を追いかけてきたんだ!」
敦少年は怒りからか悔しさからか、卓上に拳を叩き付けた。
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有原霊花(プロフ) - とある病、等の表現は出来ないのでしょうか?後からターナーの症状が物語に影響するのなら納得いきますが… (2019年8月5日 7時) (レス) id: 70a887fc81 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 有原霊花さん» 大変失礼いたしました。しかしこれはキャラクターの設定の一つである事を理解していただきたく思っております。 (2019年8月5日 3時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
有原霊花(プロフ) - 私はターナーにかかっているものです。そう易々と病名をネタに使われるのは不快なので、やめてほしいです。 (2019年8月5日 0時) (レス) id: 5869a0a1cd (このIDを非表示/違反報告)
由紀(プロフ) - 雪菓さん» すみません、いきなりなんですけど黒の時代の太宰さんのタイプの女性が「何も聞かない女性」とwiki先生が言っていたんですけど、もしかしてそれを意識して書いているんですか? (2017年11月23日 21時) (レス) id: d1693c1caf (このIDを非表示/違反報告)
雪菓(プロフ) - サラさん» わわわ、続編あったのですね、、、!!早とちりしてしまいました笑続編も楽しみにしています!! (2017年7月31日 15時) (レス) id: a8c1e7bbe3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2017年7月27日 17時