第十三章 たえまなく過去へ押し戻されながら (後編) 壱 ページ46
「…はあ」
そう考えると、溜息が自然と溢れる。書類にもちっとも手が付かない。
窓の外の青空が眩しい。
(…そういえば)
いつだったか読んだ本に書いてあった。
“空の青さをしみじみと見つめながら私は思った。空の色と不調和な色があるだろうか。山も、建物も、木も、花も、人間も、電柱も、雀も、カラスも、なんと空の色に調和して美しいことだろう。空の色はすべてのものを受け入れ、すべてのものの本来の色の美しさを引き出してくれる。言ってみればそれは『愛』と言っていい。”
…そう、確か作者は…。
「…そんなに心配なら、行ったらいいのに」
「…え、」
私は事務机の影から突然ひょこりと姿を現した少女…泉鏡花の姿に驚いた。
「鏡花ちゃん…だっけ。心配って、」
「仲間が、心配なんでしょう。先刻から溜息ばかりしている」
そうなのか、気づかなかった。それでも彼女の言い方がおかしくて、私は口に出した。
「随分、妙な言い方ね。今は鏡花ちゃんの仲間でもあるのよ」
「…」
黙り、か。まあこの子らしいか。
「先刻ね、思い出した言葉があるの」
「…それは何?」
意外と興味持ってくれてる。
私は…先程の言葉を述べた。
「“空の色と不調和な色なんかない。空の色はすべてのものを受け入れ、すべてのものの本来の色の美しさを引き出してくれる、って。それが愛なんだ”って」
そうだ、思い出した。この言葉を記したのは…。
「それを言った人はね、長い間ずっと結核に罹っていて、生きる希望も見出せられなかったんですって。
でもある日その人はこう云われたの。
“神は、その人の使命のある限り、この世に生かしておられる”って。彼女はその言葉に凄く救われたの。だって、寝たっきりの自分でも神様は使命を与えているんだ、ってそう思ったから」
「…その人は、どうなったの?」
「彼女はもう、彼女の使命を全うしたよ」
その意味を知り、鏡花ちゃんはそう…と視線を伏せた。
私は彼女を文豪としてじゃない、一人の少女として見ていた。
「鏡花ちゃん、鏡花ちゃんは“死ぬ”ってどういう事だと思う?」
彼女にとっては辛い質問だったかもしれない、けれど聞いて置きたかった。彼女の口から。
鏡花ちゃんは言い辛そうに、決まりが悪そうに、いつもの無表情を壊して言った。
「漠然として…何かとても、寂しい感じがする」
「そう。確かに大事な人がなくなったら、寂しいわよね。もう、話す事も抱き締める事も出来ないんだから」
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有原霊花(プロフ) - とある病、等の表現は出来ないのでしょうか?後からターナーの症状が物語に影響するのなら納得いきますが… (2019年8月5日 7時) (レス) id: 70a887fc81 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 有原霊花さん» 大変失礼いたしました。しかしこれはキャラクターの設定の一つである事を理解していただきたく思っております。 (2019年8月5日 3時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
有原霊花(プロフ) - 私はターナーにかかっているものです。そう易々と病名をネタに使われるのは不快なので、やめてほしいです。 (2019年8月5日 0時) (レス) id: 5869a0a1cd (このIDを非表示/違反報告)
由紀(プロフ) - 雪菓さん» すみません、いきなりなんですけど黒の時代の太宰さんのタイプの女性が「何も聞かない女性」とwiki先生が言っていたんですけど、もしかしてそれを意識して書いているんですか? (2017年11月23日 21時) (レス) id: d1693c1caf (このIDを非表示/違反報告)
雪菓(プロフ) - サラさん» わわわ、続編あったのですね、、、!!早とちりしてしまいました笑続編も楽しみにしています!! (2017年7月31日 15時) (レス) id: a8c1e7bbe3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2017年7月27日 17時