伍 ページ41
「違うの治…私、そんな積りじゃ」「そんな?じゃあどんな積りでいたんだい?」
私は彼から目を背けようとしたが、治が無理矢理私の顎を掴んで動かしたので、結局彼の目から逃れる事は叶わなかった。
「母もメロスも君を救う為に命を落とした…そんな君がこんな所で呆気なく命を落とす結果になるなんて余りに二人に申し訳が立たないんじゃないかい?
君はもう少し、一人の命の犠牲の賜物を尊ぶ可きだと思うけどね」
…そうなのだ。
昼間はポートマフィアの首領相手にあれほどの大口を叩いたが、それができたのは首領がリンタロウさんだったからだ。もしそれ以外の人間が首領だったのなら…私は間違いなく、裏切り者として処断されていただろう。
私が生かされているのは、治とリンタロウさんの中に残っている情と、メロスのおかげだ。
…なんて莫迦な真似をしたのだろう。余りに軽率だった。
私が反省したのを読み取ったのか、ハア、と溜息一つ吐いて治は離れた。
「今日はもう寝よう、A。明日…マフィアから抜け出した事にすればいい。
明日は…折檻だ」
ニヤリ。と、彼が悪どい笑みを浮かべた。童心と情欲が入り交じったような、私の背筋に震えを走らせる笑顔だった。
「ほら、お風呂に入って来なよ。そのドレス、趣味は良いけど森さんの趣味かと思うと虫酸が走るのだよね」
彼はそう云って、私からどいた。
私は彼の言われた通り、脱衣所に向かったのだが…
「何で、付いてくるの?」
「昔はよく一緒にお風呂も入ったじゃないか!」
「そうだけどね?!でも今は…」「へぇ、私に見られたら何か都合の悪いものでもあるのかい?」
私はまた言葉を失った。
今服を脱いだら…痣だらけの貧相な体が出てくるだけだ…若しかしてそれすら彼は見通していたのだろうか。恐ろしい男である。
「まあ冗談はここまでにしておいて…服を脱ぎ給え、A」
声のトーンが変わった。
声優については詳しくはなかったが、宮野真守はよく知っていた。教え子達の中で最も人気の高い声優だったからだ。
こんな男を演じているなんて恐ろしい…などと考えていたら、「私と話している最中なのに考え事なんて余裕があるね」と、言われてしまった。そして、無理矢理ドレスの襟を毟り取られる。
文句を言う余裕はなかった。
治が珍しく息を呑み、感情を露わにした。
痣だらけの妹の身体が、兄の目にはどんな風に映っているのだろう。
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有原霊花(プロフ) - とある病、等の表現は出来ないのでしょうか?後からターナーの症状が物語に影響するのなら納得いきますが… (2019年8月5日 7時) (レス) id: 70a887fc81 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 有原霊花さん» 大変失礼いたしました。しかしこれはキャラクターの設定の一つである事を理解していただきたく思っております。 (2019年8月5日 3時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
有原霊花(プロフ) - 私はターナーにかかっているものです。そう易々と病名をネタに使われるのは不快なので、やめてほしいです。 (2019年8月5日 0時) (レス) id: 5869a0a1cd (このIDを非表示/違反報告)
由紀(プロフ) - 雪菓さん» すみません、いきなりなんですけど黒の時代の太宰さんのタイプの女性が「何も聞かない女性」とwiki先生が言っていたんですけど、もしかしてそれを意識して書いているんですか? (2017年11月23日 21時) (レス) id: d1693c1caf (このIDを非表示/違反報告)
雪菓(プロフ) - サラさん» わわわ、続編あったのですね、、、!!早とちりしてしまいました笑続編も楽しみにしています!! (2017年7月31日 15時) (レス) id: a8c1e7bbe3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2017年7月27日 17時