弐 ページ36
「だが今や手前は悲しき虜囚。泣けるなァ、太宰。否、それを通り越して___」
中也の顔が目と鼻の先に迫り、彼の手が蓬髪をわし掴む。
「___少し怪しいぜ」
…早くこの江戸雀を黙らせられないかなあ。
太宰はそんな事ばかりを考えていた。今や彼の頭の中には妹のAの事だけしかなかったのである。
「丁稚の芥川は騙せても俺は騙せねえ。何しろ俺は手前の元相棒だからな。
…何をする積りだ」
「何って見たままだよ。捕まって処刑待ち」
さっさとこの茶番を終わらせよう、と太宰は手首を揺らして手枷を鳴らせてみせた。
早く帰ってAを抱き締めてやらねばならないのだから。
けれど蛞蝓の奴はどうにも厄介だった。
「あの太宰が不運と過怠で捕まる筈がねえ。そんな愚図なら俺がとっくに殺してる」
一幹部の殺気が太宰の一身を襲う。彼は毛ほども痒くないわけだが。
「考え過ぎだよ。心配性は禿げるよ。まさか...はっ」
「はげ隠しじゃねえぞ。一応云っとくが」中也が証拠にと帽子を脱ぐ。
「俺が態々ここに来たのは手前と漫談する為じゃねえ」
「じゃあ何しに来たの」
「嫌がらせだよ」
太宰が息を呑んだ。
「あの頃の手前の『嫌がらせ』は芸術的だった。敵味方問わずさんざ弄ばれたモンだ。だが___」
中也の脚が空を切る。いや、切ったのは太宰の手を嵌める枷だ。凄まじい音が太宰の頭上を走った。
「そう云うのは大抵、後で十倍で返される」
太宰が振り返って壁に蜘蛛の巣のような亀裂が入っていた。大凡、人間を止めた素晴らしい蹴り技だった。
中也って結局、大猩々なのかな蛞蝓なのかな、と太宰はこれ又失礼極まりない事を考えていた。
「手前が何をたくらんでるか知らねえが__これで計画は崩れたぜ。
俺と戦え太宰。手前の腹の計画ごと叩き潰してやる。
それで手前の元からAを奪ってやる」
…それまで考えていたこのお喋りを中断する方法が一気に頭から吹き飛んだ。
太宰は初めて中也を真面に見据えた。
ゾクリ、と中也の背中に覚えのある寒気が走る。
「…中也」太宰は元から解いていた錠の鍵を、指一つ鳴らすだけで外してみせた。
「君が私の計画を阻止?Aを奪う?!…君にしちゃ上等な冗談じゃないか」
太宰は嗤った。
その瞳は、嘗て歴代最年少幹部と呼ばれていた頃のもののそれで。
「…良い展開になってきたじゃねえか!」
それを皮切りに、中也は太宰に向かって突進して行った___。
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有原霊花(プロフ) - とある病、等の表現は出来ないのでしょうか?後からターナーの症状が物語に影響するのなら納得いきますが… (2019年8月5日 7時) (レス) id: 70a887fc81 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 有原霊花さん» 大変失礼いたしました。しかしこれはキャラクターの設定の一つである事を理解していただきたく思っております。 (2019年8月5日 3時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
有原霊花(プロフ) - 私はターナーにかかっているものです。そう易々と病名をネタに使われるのは不快なので、やめてほしいです。 (2019年8月5日 0時) (レス) id: 5869a0a1cd (このIDを非表示/違反報告)
由紀(プロフ) - 雪菓さん» すみません、いきなりなんですけど黒の時代の太宰さんのタイプの女性が「何も聞かない女性」とwiki先生が言っていたんですけど、もしかしてそれを意識して書いているんですか? (2017年11月23日 21時) (レス) id: d1693c1caf (このIDを非表示/違反報告)
雪菓(プロフ) - サラさん» わわわ、続編あったのですね、、、!!早とちりしてしまいました笑続編も楽しみにしています!! (2017年7月31日 15時) (レス) id: a8c1e7bbe3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2017年7月27日 17時