第九章 再び相見えん事を 壱 ページ31
催眠瓦斯を嗅がされた事は覚えている。
その先の記憶がないわけだが…私はどうやらお決まりの展開を迎えているらしい。
天蓋付きのキングサイズベッドに、いつの間に着替えさせられたのか趣味の悪い黒のドレス。
着替えさせられておいて何だけど、私にドレスなんてものは似合わないと思う。だから今すぐにでも脱ぎ捨てたい気分だ。
それはさておき、この室内。
寝台の他に執務机や衣装ダンスなどが置いてあるこの部屋。見覚えがあるというレベルではない。
此処は私がマフィアだった頃、使っていた部屋だ。
治と夜逃げした日の侭、書物の位置も椅子の向きも変わらず、埃さえ被っていないその様は、不気味としか言いようがない。
それにしたって、自分の間抜け加減に腹が立つ。
外に出るなということ言いつけを破り、誘拐されるだなんて。愚の骨頂としか言いようがない。
そして、神様は矢張り私を見捨ててはいなかった。これは飽くまで悪い意味で。
コンコン、と叩敲の音が数回した。今此処で「入って来ないで」と云えば、外の者は入って来ないのだろうか。否、そんな馬鹿げた話があってたまるか。
私はそんないい身分じゃない。
…ああ、此処に来るという事は矢張り相手は“彼の人”…
「失礼するよ」
開いた扉から入って来たのは、長い黒髪を後ろで束ね、これ又黒いスーツを着こなした中年男性だった。
「久しぶりだね、Aちゃん」
ポートマフィア首領、森鴎外___能力名『ヰタ・セクスアリス』。
「リンタロウ、さん」
私は一瞬で、身体の全機能を停止させてしまっていた。
…震えが、震えが止まらない。
誤魔化しに、ドレスの裾をギュウッと握りしめたが、何の気休めにもならなかった。
「元気にしていたかい?」
「…一体どういう心算なのか、聞きたいわ」
枕元に座り込んで来た彼に対し、警戒を解かなかった。何時、この闇医者の凶刃に掛かるかわかったものではない。
例え、“親子”だったとしても。
この男は自分に敵対する者に対して容赦ないだろう。
「どういう心算か、だって?そんなの決まっているじゃあないか。
四年前、君が突然太宰君と失踪してから落ち落ち夜も眠れなかったよ。
それからはずっと、こうしてまた話が出来る日を心待ちにしていた。
当然ではないかね?
....嗚呼、私はこの人が嫌いだ。
結局はこの人も同じだからだ。
ただ、寂しがりやで一人ぼっちの...子供だからだ。
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有原霊花(プロフ) - とある病、等の表現は出来ないのでしょうか?後からターナーの症状が物語に影響するのなら納得いきますが… (2019年8月5日 7時) (レス) id: 70a887fc81 (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - 有原霊花さん» 大変失礼いたしました。しかしこれはキャラクターの設定の一つである事を理解していただきたく思っております。 (2019年8月5日 3時) (レス) id: 4e09bde857 (このIDを非表示/違反報告)
有原霊花(プロフ) - 私はターナーにかかっているものです。そう易々と病名をネタに使われるのは不快なので、やめてほしいです。 (2019年8月5日 0時) (レス) id: 5869a0a1cd (このIDを非表示/違反報告)
由紀(プロフ) - 雪菓さん» すみません、いきなりなんですけど黒の時代の太宰さんのタイプの女性が「何も聞かない女性」とwiki先生が言っていたんですけど、もしかしてそれを意識して書いているんですか? (2017年11月23日 21時) (レス) id: d1693c1caf (このIDを非表示/違反報告)
雪菓(プロフ) - サラさん» わわわ、続編あったのですね、、、!!早とちりしてしまいました笑続編も楽しみにしています!! (2017年7月31日 15時) (レス) id: a8c1e7bbe3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サラ | 作成日時:2017年7月27日 17時