【伏黒ルート】佰拾捌:影と共に ページ23
伏黒side
俺の肩に、榎森の手が乗った。
『お前がいい』
小さく呟かれる。真っ直ぐ俺を射抜く紫色の瞳を、俺は呼吸を忘れるほどぽかんとした意識のまま見返していた。
「……俺で、いいのか…?」
喉から振り絞った声は小さかった。上手く気持ちが整理できない、ただ少しずつ身体の奥底から熱が上がってくるのを感じた。
『嗚呼。お前がいい』
二回目の言葉。その言葉ではっきりと頭が冴える。途端に身体の奥から上がってきた熱が全身を駆け巡った。
「ほ、本当に…っ」
『お前がいい。お前は、俺が居ないと駄目そうだからな』
柔らかな笑顔が向けられる。言葉が上手く出ない。そのまま俺は俯いて、喜びにニヤつきそうになる口元を手で抑えた。
榎森が、俺を選んでくれた。虎杖だと思っていた。それなのに、アイツは俺を……
「(嬉しい…)」
ぐっと気持ちを堪えて、平静を取り繕う。と、隣からワシャリと頭を撫でられた。
「良かったな伏黒!」
「あ、嗚呼…」
屈託無い笑顔を浮かべる虎杖は、自分のことのように喜んでいた。……でも、
「…虎杖」
「ん?」
手を取り、降ろす。そして今度は俺がポンポンと頭を撫でてやった。
「…泣きたい時は泣けよ」
虎杖がポカンと目を丸くする。俺から榎森へと視線を移すと、榎森は申し訳無さそうな優しい笑顔で頷いていた。
「……、…っ」
途端に顔が歪む。ボロボロと涙が溢れて、虎杖は大きな声で泣き始めた。子供みてぇに泣きじゃくる虎杖の隣に榎森が座り、そっと抱き締める。俺も泣き止むまで優しく頭を撫でてやった。
「俺っ、俺…っ、応援してるから…っ!!二人共、幸せに…っ、うぅ〜…っ!」
『分かってる。お前もちゃんと一緒に来いよ』
「そうだ。お前が居ないと、俺達は幸せじゃねぇからな」
「ん…!!分かった…っ!!」
泣きながら何度も頷く虎杖に、俺達は揃ってクスクスと笑った。
後悔は無い。虎杖が抱いた気持ちの分まで、俺が榎森を幸せにしなきゃならねぇ。きっと幸せにしてみせる。
俺は、榎森が好きだ。ずっと好きだ。いままでも、これからも。
「(何があっても、俺はもう…離したりしねぇ)」
それが、選ばれた俺の運命だ。
226人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
九龍(プロフ) - バナナプリンさん» コメントありがとうございます!現在は更新停止していますが、気が向いたらまた書き始めますので、その時はまたよろしくお願いいたします! (12月29日 22時) (レス) id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
バナナプリン - 一気に全部読んじゃいました!!オリジナルなのにこんなにしっかりとした深い作品ができるなんて!!すごい今感動しています!! (12月29日 21時) (レス) id: 2d27e83292 (このIDを非表示/違反報告)
九龍 〜くーろん〜(プロフ) - ラエルさん» コメントありがとうございます!頑張って更新しますね!! (5月23日 21時) (レス) id: 30fbc50707 (このIDを非表示/違反報告)
ラエル(プロフ) - 更新楽しみに待ってます (5月23日 17時) (レス) @page29 id: 2dd5f200d4 (このIDを非表示/違反報告)
15 - 一気読みしましたが、めちゃくちゃ刺さりました!乙骨君や伏黒君との関係もしっかり書いてあって凄く面白かったです!男主君のやり取りとか性格、全部好きです!文章力すごすぎです!終わりかたもすっきりしていて選択が出てきたときすごい感動しました! (2022年5月5日 1時) (レス) @page28 id: 62618493d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月29日 15時