佰拾肆:一時の夢 ページ19
甚爾side
ソイツは、紗枝より俺に似ていた。
紫色の目、憎たらしいほど俺に似た色白の顔。投げ渡したソレを訝しげに見るそいつに向かって、「布取らずに取り込め」とだけ伝えた。
『何だよコレ』
「お前への誕プレ。この時間だとお前は誕生日だろ?2歳おめでとう」
『俺は2歳じゃねぇっ!』
男にしては少し高いが、紗枝に似て優しい声だ。自然と口角が緩む。
「"あの子は人に愛されて、人を愛する子になるわ"」
「なぁ、実」
『ん?』
「友達出来たか?仲良くしてるか?」
俺の渡した呪具を取り込み、複製を作る俺の息子に声をかける。実は『おう』と言って複製した呪具を俺に渡した。
『煩ぇけど楽しい奴らが周りに出来た。それに強い先生も居る。退屈はしてねぇ』
「そうか。それは良かった」
俺みたいにならなくて良かった。
その人生が紗枝の描いた通りになるように願っていた。俺のような道を歩んで欲しくないとどこかで思っていた。だけどまぁ、杞憂だったな。
渡された呪具を仕舞う。呪力を使って本物同等まで力を複製したと説明を聞いてから、俺はワシャリと馬鹿息子の頭を撫でた。
「早く帰れ、クソガキ」
笑ってやる。ソイツは『言われなくても』と少し口を尖らせて、自分の術式で鏡を作り出して廃屋の方に向かった。
『親父』
「あ?」
壊れかけの扉を開ける前に、俺の息子はこっちを見て笑った。
『長生きしろよ。俺、何があっても親父が大好きだからさ』
「……おう」
返答にそいつはまた笑顔になった。扉を開け、光の中に帰っていく。
眩しい光が辺りを包む。そうだ、確かチョコがいいって言ってたよな。でもいいか、普通のを買っていこう。アイツはどんな顔すんだろうな。
でかい苺を前にして目を輝かせて喜んでいた。石鹸水飲んでゲロった時はマジで焦った。
呪霊に紗枝が殺された時、己の無力さを呪った。
次は間違えないようにと努めたが、結局零れ落ちた。やっぱり俺は親に向いてねぇや。
「…後悔は無ぇな」
目を開けると元の世界に戻っていた。最期に見る走馬灯ってやつだったんだろう。
手に持った天逆鉾が泥のように溶けていく。込み上げる血を吐き出して、口元に笑みを浮かべた。
「ガキが2人居る。二人共2、3年もしたら禪院家に売られるが、お前の好きにしろ」
目の前に立つ男にそう言い残して、眠気に誘われるまま目を閉じた。
きっと、いい夢が見られるだろうなぁ。
226人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
九龍(プロフ) - バナナプリンさん» コメントありがとうございます!現在は更新停止していますが、気が向いたらまた書き始めますので、その時はまたよろしくお願いいたします! (12月29日 22時) (レス) id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
バナナプリン - 一気に全部読んじゃいました!!オリジナルなのにこんなにしっかりとした深い作品ができるなんて!!すごい今感動しています!! (12月29日 21時) (レス) id: 2d27e83292 (このIDを非表示/違反報告)
九龍 〜くーろん〜(プロフ) - ラエルさん» コメントありがとうございます!頑張って更新しますね!! (5月23日 21時) (レス) id: 30fbc50707 (このIDを非表示/違反報告)
ラエル(プロフ) - 更新楽しみに待ってます (5月23日 17時) (レス) @page29 id: 2dd5f200d4 (このIDを非表示/違反報告)
15 - 一気読みしましたが、めちゃくちゃ刺さりました!乙骨君や伏黒君との関係もしっかり書いてあって凄く面白かったです!男主君のやり取りとか性格、全部好きです!文章力すごすぎです!終わりかたもすっきりしていて選択が出てきたときすごい感動しました! (2022年5月5日 1時) (レス) @page28 id: 62618493d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月29日 15時