佰拾弐:見覚えのある顔 ページ17
実side
「あ?何だって?」
目の前の男は首を傾げた。持っている刀を肩にかけたまま、ボリボリと頭を掻く。
俺はこの男を知っている。直感的に父親だと感じたんだ。
『何で…此処に…』
「そりゃこっちのセリフだ。お前誰だ?」
ぶっきらぼうに紡がれた言葉に、俺は白いフードを外して顔を露にした。
『俺だよ、榎森実だよ!息子の顔忘れたのか!?』
「…!…実…」
少し驚いたように目が見開かれる。小さく漏れた言葉を聞いた瞬間、一瞬にして俺の目の前まで来たその手から横へ刃が叩き込まれた。
『っ!!』
反射的に刀を持って行き防いだが、勢いを殺しきれず数本の木をなぎ倒して吹き飛ばされた。背中から大木にぶつかり、衝撃で肺から空気が抜け『かひゅっ』と喉が悲鳴を上げる。
一気に空気を抜かれた反動で肺が痛む。咳き込む俺の身体に影がかかると、真上から刃が振り下ろされた。
「おっ」
身体を泥に変化させて刃に触れずに四散する。遠くの方で身体を再構築したが、僅かに掠ったらしく右腕に血が滲んだ。
あの刀、呪具か…っ!
「面白ぇな、お前」
『俺はアンタと殺り合う気はねぇんだよ…っ!』
痛む胸を押さえながら叫ぶ。親父は「ん〜…」と悩んだ表情で刀を構え直した。
「つってもなぁ?俺の息子は今2歳のガキだ。そんなガキが突然でかくなったってか?信じられねぇんだよ、お前の話は」
『2歳……!?』
2歳。ということは…
『…今は、何月何日だ』
「あ?」
『いいから教えてくれ』
「4月の25だ」
成程な…。俺は小さく息を吐いて、木に寄りかかった。
『…チョコが良い』
「はぁ?」
『ケーキ買ってく気だろ?俺はショートよりチョコが好きだ。…母さんもチョコ好きってばあちゃんから聞いた』
あの鏡…推測だが、なんとなく効果が分かってきた。
きっと、所有者の一番幸せだった時の時間に飛ばす呪物だ。
「何で俺がケーキ買うって知ってんだよ」
『ばあちゃんから聞いただけだ、全部な。石鹸水飲んで死にかけたのも聞いてる』
「…!」
『やっぱりな』
たくさんゲロったって聞かされた。親父がテンパって背中叩きすぎて、ちょっと背中が赤くなって、俺が泣き喚いて母さんに叱られてたって。
「…マジかよ」
『マジ。だから武器下ろしてくれ。俺も戦う気はねぇよ』
降参とばかりに手を挙げる。親父は暫く俺を見た後、刀を呪霊の口に収めた。
「話聞かせろ、馬鹿ガキ」
226人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
九龍(プロフ) - バナナプリンさん» コメントありがとうございます!現在は更新停止していますが、気が向いたらまた書き始めますので、その時はまたよろしくお願いいたします! (12月29日 22時) (レス) id: 69e5a75295 (このIDを非表示/違反報告)
バナナプリン - 一気に全部読んじゃいました!!オリジナルなのにこんなにしっかりとした深い作品ができるなんて!!すごい今感動しています!! (12月29日 21時) (レス) id: 2d27e83292 (このIDを非表示/違反報告)
九龍 〜くーろん〜(プロフ) - ラエルさん» コメントありがとうございます!頑張って更新しますね!! (5月23日 21時) (レス) id: 30fbc50707 (このIDを非表示/違反報告)
ラエル(プロフ) - 更新楽しみに待ってます (5月23日 17時) (レス) @page29 id: 2dd5f200d4 (このIDを非表示/違反報告)
15 - 一気読みしましたが、めちゃくちゃ刺さりました!乙骨君や伏黒君との関係もしっかり書いてあって凄く面白かったです!男主君のやり取りとか性格、全部好きです!文章力すごすぎです!終わりかたもすっきりしていて選択が出てきたときすごい感動しました! (2022年5月5日 1時) (レス) @page28 id: 62618493d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月29日 15時