漆拾陸:やっと会えた ページ30
虎杖side
「お疲れ様でしたー!」
任務を終え、補助監督の人と別れて近くの自販機で飲み物を買う。
この一週間、ずっと任務と自分の部屋の往復を繰り返してる。たまには榎森の顔でも見に行こうかなぁ…そう考えながら買った飲み物の蓋を開けて、中身を飲んだ。
「(まだ、寝てんのかな…)」
あの綺麗な寝顔を思い出す。あまりにも綺麗過ぎて、死んでるように見えちまって…何か、最近はずっと榎森の部屋に行ってない。
目の前に居るのに、何も答えてくれない。そんな姿に胸が痛んで、俺はいつの間にか部屋に行く事が無くなった。
「…でも顔出してやらないとなぁ」
小さく息を吐く。今日は行こう。そう腹を括って歩き出した、その時だった。
『虎杖』
背中に、聞きたかった声がぶつかった。
ドクリと身体が震える。ゆっくりと振り返ると、そこには俺がずっと見たかった笑顔があった。
「………え……も、り…?」
『ん』
優しい笑顔が向けられる。伏黒と同じ顔になってるけど、綺麗で優しい光を湛えた紫色の瞳は同じだ。優しい声も、優しい笑顔も、全部榎森と同じだ。
『…悪ぃ。挨拶遅れた』
榎森が歩いてくる。紫色の瞳が細められると、ポンと頭に温かい掌が乗った。
『ただいま、虎杖』
「……」
言葉が出ない。
言いたい事がたくさんあった筈なのに、どれも喉から出ない。ただ一つだけ、目から溢れる温かい液体だけが、頬を伝い落ちていく。
「……っ!」
『っと…』
抱きついてしっかりと抱きしめる。温かい体温が俺の身体に染み渡った。
生きてる。心音の音がする度に、声が出そうなほど泣きたくなる。
「ごめん…っ、ごめん…っ!でも、良かった……っ!!」
『…おう』
頭を撫でられる。優しい撫で方だ、優しい声だ、俺の、俺の大好きな、榎森の声と温もりだ。
涙が止まらない。力が緩むことも無く、俺はただただ声を殺して泣きじゃくった。
らしくないな、ほんと。みっともなく子供みたいに泣いても、榎森は黙ってずっと抱きしめて、撫でてくれた。
「おかえり…っ!!」
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九龍-くーろん-(プロフ) - 日向さん» ありがとうございます!一気に読んで頂けるとは…!とても嬉しいです!更新頑張ります! (2021年1月24日 21時) (レス) id: 50fae09df6 (このIDを非表示/違反報告)
日向(プロフ) - 初めまして!主人公の設定や周囲との関係、ストーリーなどがとても面白くて1作目から一気に読んでしまいました!応援してます、更新頑張ってください! (2021年1月24日 20時) (レス) id: 0ceab624dc (このIDを非表示/違反報告)
九龍-くーろん-(プロフ) - 南蛮モナカさん» ありがとうございます!とても嬉しいです…!今後とも主人公達の道を見守って頂けると嬉しいです!更新頑張ります! (2021年1月23日 0時) (レス) id: 50fae09df6 (このIDを非表示/違反報告)
南蛮モナカ - 設定とかキャラ達の関係性?とか話の進み方とかすっごく好みです!更新がんばってください! (2021年1月22日 23時) (レス) id: 4ea39a9195 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:九龍 -くーろん- | 作成日時:2021年1月21日 17時