赤色に染まる白の君《2》 (ページ10)

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♡聞いたことのない話だページ10

エースside

「同胞を屠り、人ならざる身でありながら人間のように恋をするとは！つくづく貴様らは面白い存在だ」

煩い。

「魔力の質も良い。記憶も読めるぞ？エース、ほぅ…エース・ハートか。ハートの国のトランプ兵…」

煩い…っ！

『(その姿で僕の名前を呼ぶなっ！！)』

木々が邪魔して動けない体を激しく動かす。ギシギシと鳴る樹木は一向に僕を離そうとしない。くそ…っ、やっぱりアップルの操る木はそう簡単には壊れないか…っ

「そう怒るなエース。言っただろう？この男は貴様を好いていると。記憶を有する今、我もお前に愛おしい感情を抱いている。難儀なことだ、この手で八つ裂きにしてやろうと思ったのだがなぁ？」

そう言う悪霊は僕の口の木をするりと解いた。げほっと数回咳き込むと、無理やり頬を片手で掴まれて顔を上げさせられる。
…あぁ、アップルの顔だ。あの綺麗な赤黒い目は真っ黒に淀んでいて、微笑すら整った綺麗な顔に見える。でも、こいつは、偽物だ…っ！

「気が変わった。どう辱めてやろうか…」
『っ！』
「…！」

楽しそうに笑うその顔に唾を吐いてやる。頬に当たった唾をソイツは指先で掬ってから、舌先で舐め取った。
途端に、僕を拘束する木の力が一気に強くなった。

『っ、あ゛ぁ…っ！？』

ミシミシと体から悲鳴が上がる。首が絞められて息がし辛くなって、はくはくと口が勝手に酸素を求めて痙攣した。

「あまり生意気なことをするな、うっかり絞め殺してしまうだろう」

首元だけ力が緩んで激しく咳き込む。ヒューッと喉を鳴らしながら睨みつけてやると、ソイツはうっとりと目を細めて笑った。

「良い眺めだなエース・ハート。嗚呼…どうやって壊してやろうか」
『っ、勝手に言ってろ。大体、アップルが僕を好きとか聞いたこと無いよ…っ！』
「そうだろうなぁ。この男も話す気は無かったようだ。だが凄いぞ？お前に向けられた愛情、そしてお前の側に居る男への嫉妬！なんと複雑な愛憎か。いつの時代でも人間の心理による快楽は素晴らしいものだ」

ソイツは僕の顎に手を這わせて、指先で唇を撫でてきた。ゾクリとした悪寒が背筋を伝う。何する気だ…っ

「口を開けろ」

その一言は、僕にじわりとした悪寒を走らせるのには充分な不気味さがあった。